タイでは建築物のほとんどにこういった祠が建てられる。一部はパワースポットとして有名な場所もある
100年以上も前からタイと日本は正式な国交があり、タイは東南アジアの中でも随一の親日国としても知られる。そのため、両国の国民らの交流は盛んで、互いの国に興味を持ち合っている。
これほどまでタイと日本の相性がいいのは、文化的に似た部分があるからではないだろうか。同じアジア圏内であることや、大まかにいえば両国とも仏教徒が多いことなどが、案外互いの国を訪れたときにほっと一息つける要因かもしれない。
タイも日本も仏教伝来の前は精霊信仰(アニミズム)があった点も共通している。日本は神道として民族宗教のひとつとなって確立されていったが、森羅万象に宿るとされる精霊(あるいは神)を崇める点は、神道もタイの精霊信仰も非常に似ている。
日本では「八百万(やおよろず)の神」が、とにかくなんにでも宿っていると考えられてきた。タイも自然物には必ず神や精霊が宿っていると考え、特に樹木には守護神がいると信じてきた。タイの上座部仏教ではルッカテワダーと呼ばれる天使の一種とされ、精霊信仰では主に女性の霊が木に宿っているとタイ人は信じている。
国立病院内にあった神木。病院に神木があるといろいろと勘ぐってしまいそうだ
こういった樹木に宿る精霊の話は多くあり、古典的な怪談でも語り継がれている。たとえば、日本では材木のひとつであるラワン材として輸入されるフタバガキ科の樹木・タキアンに宿る「ナーング・タキアン」が有名だ。タキアン女史といったような意味で、普段は宿っているタキアンの周辺を掃除している、民族衣装を着た美しい女性の姿をしている。
また、ほとんどナーング・タキアンに似た精霊に「ナーング・ターニー」もいる。こちらはグルアイ・ターニーという野生のバナナの木に宿る。タイ女性らしく、普段の気性はおとなしく、きれい好きな霊だとされるが、木を伐採しようとしたり、周辺の土地を荒そうとすれば、たちまち人間に牙をむく悪魔のような存在になる。
そんな精霊が宿る樹木はそっとしておいてあげることが大半ではあるものの、切り倒して家屋や船などの材木として使用することもある。そんな場合、ときにはその精霊が人間に災いをもたらすどころか幸運の女神になる。伐採されて怒ることもあれば、優しく守ってくれ続けるケースがあり、このあたりはタイの南国人らしい、都合のいい解釈でどうにでもなっているような気もする。
とにかく、タイでは今も樹木に対する感謝や畏怖の念は強く残っている。東京に匹敵する大都会になりつつあるバンコクでさえ、そこかしこにタイ人の精霊信仰が見られるのだ。