「買うか借りるか」。物件を取り上げることを生業にする不動産執行人はその質問にどう答えるか?<競売事例から見える世界42>

賃貸物件イメージ

Ryozo / PIXTA(ピクスタ)

不動産執行人が「答えづらい」質問

「災害も多いですし、フットワークの軽い賃貸のほうがいいですよね?それとも無理して家を買ったほうがいいですか?」  このどちらも支持できない二択質問を最近よく問われる。  以前にもこの“賃貸vs持ち家”というテーマに触れたことはあるのだが、それでも賃貸派は賃貸暮らしを肯定する意見や理由を求めているらしい。  もしそうであるならば、差し押さえ・不動産執行の現場に携わるものから「賃貸のほうがいいよ」という答えはまず出てこないと思われるため、賃貸オーナーや不動産投資家、不動産屋を当たったほうが良い。  というのも我々は何の落ち度もなく賃貸物件で暮らす賃借人から、物件を取り上げるという部分を担うことも多く、彼らの陥る身動きの取れない状況を目の当たりにしているからだ――。  差し押さえ・不動産執行から発生する賃借人の追い出しという事例、その大半は収益物件のオーナー(つまり大家)が出す不渡り(債務不履行)を主原因とする。  よって賃借人に全く落ち度はなく、家賃滞納も無い。  ある日突然身に覚えのない書面が届き、無視していようが我々がやってくる。  全く心当たりのない書類を無視してしまう気持ちもわからないではないが、そのような場合にも強制解錠でやってくる。  そして説明に納得しようがしまいが数ヶ月以内の立ち退きを求められることになる。

ほとんど無一文の賃借人はどうなるのか

 稀に新たなオーナー(競売落札者)が家賃の継続的な支払いを条件にそのまま住んでも良いという契約を結ぶこともあるが、大半はそううまくいかない。  立ち退きを求められたものの中には、転勤で遠方から引っ越してきたばかりの一家、引きこもり女性、数人で暮らす外国人といった印象深い人々もいたのだが、現場で多く出くわす賃借人、それは高齢者だ。  こうなってしまうと状況は芳しく無い。高齢者、特に後期高齢者が次なる賃貸物件を探すこと、賃借契約を結ぶことは難しく、次なる生活の拠点が見出せない状況に陥ってしまうのだ。  これらは物件オーナーが独り身高齢者に部屋を貸した際に発生する確率が高まる“孤独死”による原状復帰の手間や費用、入居者離れから身を守るための措置。一概に「酷すぎる」と責め立てるものでもない。  また、不動産執行とは少々離れるが、執行には「建物明け渡し」というものもある。  これは賃貸物件での賃料未払いから発生する、賃借人に出ていってもらうための措置を指す。  不動産執行の現場では、少なくとも債務者が「不動産」という財産を持っているのに対し、建物明け渡しの現場では賃借人が全く財産を持っていないというケースが目立つ。  そうなるとどのようなことが起きるのか。  賃借人の「自殺」だ。
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賃貸を突然追い出されるのは死を意味する
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