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不動産執行の現場でも無関係ではない「高齢者運転事故」
「高齢ドライバーの引き起こす交通事故」
超高齢化社会を迎える現代日本が直面する社会問題であり、特効薬的単純明快な解決方法があるわけでもない。
以前にもテーマとして扱い、「極論染みた策に活路を見出すべきではない」としたが、あれからしばらく経つ今も「高齢ドライバーの引き起こす交通事故」報道は減る気配なく、残念ながら当たり前のような頻度でズルズルと続いている。
柔軟な判断力を持つ高齢ドライバーは、相次ぐ「高齢ドライバーの引き起こす交通事故」報道を受け、自ら或いは家族に促され免許返納へと動いているようだが、このような成功事例が大多数というわけではない――。
差し押さえ・不動産執行にはいくつかの種類や関連業務がある。長くなるので細かい説明は省くが、大きな分類となるのが事件符号の(ケ)と(ヌ)。
現場で扱う大部分は事件符号
(ケ):住宅ローンの債務不履行により担保不動産が競売にかけられる「担保権の実行」となり、残り10~20%程度の割合で事件符号
(ヌ):債権者の訴えにより債務者の不動産を競売にかける「強制競売」が入る。
債権者と債務者の間にトラブルがある以上
(ヌ)は要注意事件となり、今回紹介する事例も(ヌ)だ。
この日の不動産執行は、債権者の訴えが数十万円という我々の取り扱う事件としては成立が難しいほどの少額案件。これらが意味するものとは大抵の場合、
「警告」だ。
というのも、数十万円の借金に対して、1000万円の不動産が競売にかけられてしまうかと言えば、そう簡単にはいかない。
債務の大きさに対して競売にかける不動産の価値が大きすぎる場合「超過売却」となってしまうため、成立しないことも多いのだ。そのため、これらを知りつつ「強制競売」をかけてくるということは、簡単に言うと「さっさと払えよ」という警告的意味合いが強いという寸法。
不動産執行の現場としても、関わったところでいくつかの理由から事件自体が取り下げになる可能性も高く、債権者・債務者共に得をしないという“不毛さ”の否めない案件だ。
そんな現場でかれこれ45分ほど債務者の到着を待っている。
事前情報としてもらっている債務者の年齢はなんと
85歳。そのため、よろよろとこちらに向かってくる自動車が遠くに見えたタイミングで、「あれが債務者の運転する車なのであろう」ということは全員がなんとなく把握していた。
古いセダンが債務者宅に寄せることも無く道路中央に止まる。助手席から債務者の奥さんが下り、ゆっくり家に入ると、そのまま小刻みで一進一退な切り返しが続くという車庫入れを5分ほど眺めることになった。
最終的に約束の執行開始時間から約1時間が経過し、ようやく債務者と言葉をかわすタイミングがやってくる。
「今日の約束お忘れでしたか?」
「そんなことはない。納得できないんだよ」
執行に対して納得がいっていないという債務者。ここからその“納得がいかない”理由について40分ほどの熱弁が展開されることになった。