まんが/榎本まみ
「それは、おツラい状況ですね」
私が声をかけると、相談に来た妻(40代)の目から大粒の涙が溢れ、ポロポロとこぼれた。
夫は、些細なことで怒り、大声を出すという。10数年前の結婚当初、言い返したら顔面を殴られた。それ以降、妻は逆らわず、夫の機嫌を伺い、怒らせないように努力してきた。
中学1年生と小学校3年生の息子たち2人も、夫に怯え、夫が帰宅すると、無口になってしまう。
「あなたもお子さんたちも壊れてしまう。別居、離婚を考えて下さい」と水を向けると相談者は、「でも、主人が怒ると思います」と否定する。
「そうですね、おそらく、激しく怒るでしょうね」と私が同調すると、相談者の顔がこわばった。
モラ被害を受け続けている被害妻たちにとって、離婚のハードルは高い。
1、夫が怒るかどうかが行動基準になっている
被害妻たちは、長年、夫を怒らせないように行動してきており、それが身に沁みついている。
したがって、夫が激しく怒ると思うと、別居、離婚へ踏み切ることが難しい。別居や離婚を夫にお願いし続ける妻もいるが、モラ夫は、自分自身に再婚を約束した愛人ができるなど特別な事情のない限り、離婚を認めない。
別居、離婚を進めるには、「怒るかどうか」を基準にしてはいけない。
2、夫を怒らせる私にも落ち度がある
「
俺を怒らすお前が悪い」は、モラ夫の常套句である。落ち度を指摘され、怒られ続けると、妻たちは、「私にも落ち度がある」「(夫を怒らせる)私も悪い」と思い込んでしまう。
一種の洗脳である。「怒らせるかどうか」の基準の次は、この「洗脳」の問題が控えている。
例えば、法律相談などで、担当弁護士が、「そんなことで怒る彼が問題」「あなたは、悪くない」と言っただけでは、被害妻たちの「洗脳」は解けない。「私の掃除はいい加減」「料理が下手、手抜き」などと、被害妻の口から、次々に出てくる「落ち度」「夫が怒る理由」を一つ一つ潰していく必要がある。
事案によるが、この洗脳を解く作業のために、数ヶ月にわたる法律相談を継続することもある。