千曲川の堤防が約70メートルにわたって決壊した長野市穂保(ほやす)地区。堤防復旧工事が進んでいたが、この先で川幅が狭くなり、水位が上がって堤防決壊のリスクが高いところだった
台風19号が本州に上陸した10月15日、千曲川の堤防が70メートルにわたって決壊した。その現場である長野市穂保地区を訪れると、そこには東日本大震災の被災地と同じような光景が広がっていた。
一階部分の壁が抜け去った二階建て家屋が立ち並び、一気に押し寄せたであろう濁流の激しさを物語っていた。庭には車や農機具がガレキに埋もれ、周辺は一面泥でまみれていた。
堤防脇の住宅は半壊状態。ようやく晴れ間が見えるようになったためか、長靴をはいた女性が家の周囲を見て回っていた。「ご自宅ですか?」と声をかけると、無言のまま小さく頷いただけで、その場から離れていった。しばらくすると、再び自宅前に戻って損壊状態を確かめていた。
目の前に広がっていたのは、去年7月の西日本豪雨災害で堤防が決壊した岡山県倉敷市真備町と瓜二つの光景でもあった。死者50人以上の被害を出した真備町の堤防決壊について「歴代自民党政権による人災」と指摘したのは、河川政策の専門家で日本初の流域治水条例をつくった前滋賀県知事の嘉田由紀子参院議員だ。
筆者が以前リポートした記事
「『西日本の豪雨災害は、代々の自民党政権による人災』河川政策の専門家、嘉田由紀子・前滋賀県知事が指摘」で、嘉田議員は次のように語っていた。
「滋賀県知事になる頃から『矢板やコンクリートで周りを囲む、アーマーレビー工法で鎧型堤防にして補強すべき』と国に提案してきたのですが、歴代の自民党政権は『鎧型堤防は当てにならない。堤防補強よりもダム建設だ』と言ってきた」
今回の台風19号被害は「ダム最優先・堤防強化二の次」を続けてきた、歴代政権による“人災”が再び繰返されたといえる。西日本豪雨災害の教訓を活かさなかった現政権の職務怠慢の産物と言っても過言ではない。
千曲川の堤防決壊現場を視察する、大塚委員長ら堤防調査委員会
千曲川の堤防決壊現場では、15日昼過ぎから「堤防調査委員会」委員長の大塚悟・長岡技術科学大学工学部教授が現地視察を行い、会見に応じた。地元記者との質疑応答が一回りしたところで、筆者は次のように聞いてみた。
――越水で浸食して破堤したということであれば、そもそも堤防の強度が不足しているのではないか。「もっと(堤防を)強化しておくべきだった」という見方はされないのでしょうか。
大塚委員長:一般論ですが、堤防はもともと土堤ですから、それほど強度は強いものではない。
――鉄板(矢板)を入れるなどして堤防を強化できるはずです。越水をしても決壊しない工法をやろうとすればできるはずだったのに、なぜ採用されなかったのですか。
大塚委員長:それはたぶんプラスの面とマイナスの面があるのだろうというふうに思います。確かにシートパイル(鋼矢板)が入っていれば、水に強いということは言えます。ただ、それが土堤とよく馴染んでいなければ、効果を発揮しないのかなと思います。
それと、堤防は延長が長いですから。全部にシートパイルを入れるのかと。それは非現実的ですし、現状ではいろいろな判断で入れられていないことになると思います。
現地視察後、会見をした堤防調査委員会の大塚悟委員長
とても納得できる発言ではない。堤防が決壊した穂保(ほやす)地区は千曲川の川幅がすぐ先で狭くなっていて、大雨時には水位が上がって堤防が決壊しやすい“危険地域”だったからだ。堤防が決壊した西日本豪雨災害を教訓にして、緊急に堤防強化をすべき高リスク地区であるのは一目瞭然だった。それを怠っていたのだ。筆者は質問を続けた。
――(穂保地区の)この部分は、この先が(川幅が)狭くなって特に危険な区域だと指摘されていますが、そういうリスクが高いところの堤防強化を緊急にするべきだったのではないですか。
大塚委員長:もしそういうご批判があれば、今後、検討していく必要があると思います。
――去年の西日本豪雨災害の教訓を全然活かしていないのではないか。あの時も破堤して「堤防強化をするべきだ」という専門家の意見が出たにもかかわらず、なぜ、ここは強化されなかったのですか。
大塚委員長:例えば、堤防強化をするのも一つですし、河道断面を大きく増やすとか、粘り強い堤防を作る。それ以外に拡幅工事、堤防を厚くするとか、いろいろな方法があります。堤防の上を舗装するとか、いろいろな浸食対策が行われていて、全国的に実施されています。