この点について、事情に詳しい行政書士に確認した。
「行政書士が仕事として監理団体の書類作成を代行することはあります。監理団体の認可申請書を作成したり、監査報告書を作成したり。『エア監査』の書類を作成しているところもある。中には送り出し機関や監理団体が作成した書類に行政書士がハンコを押すだけの『ハンコ貸し』を行っているところもあるそうです」
――行政はこのような問題に気づいていないのか?
「そりゃ気づいていますよ。しかし行政にとって『事実』とは『書類』なのです。書類さえしっかりしていれば、それは事実です。もちろん行政も『エア監査』などに気づいているでしょうが、実態調査に乗り出すことは絶対にない。そんなことをしたら問題が山ほど出てくるのは目に見えていますから。わざわざ自分から面倒事を引き起こして、自分たちが技能実習制度を監督できていない事実を明るみに出す必要はない。問題が起きれば認可を取り消すだけです。仮に行政が実態調査をやる気になっても、人手が足りなくてできないでしょう」
監理団体は監理事業を適切に行っていない。だが、2019年10月現在、監理団体に対する行政処分は認可取消3件、業務停止命令0件、改善命令3件しか公表されていない。現在、2017年に設立された国の認可法人「技能実習機構」(OTIT)が監理団体を監督しているが、その実態を取り締まれているとは思えない。
最後に提起したい問題は、監理団体の不可視性だ。監理団体の実態は外から見ているだけでは分からない部分が多い。監理団体は社会的に「見えにくい」存在なのだ。監理団体の監督機関であるOTITはその実態を把握できていない。マスコミもその実態には迫れていない。実習生の支援者もそうだ。
ある支援者は「所属先の監理団体に連絡しても最初から電話がつながらない、一度つながってもその後はつながらない。本社を訪ねても
雑居ビルの一部屋で、社長と事務員の二人しかいなかったりする」と語った。
また実習生を支援するNPO法人の代表は「北関東の監理団体を回ったが、私が訪ねたところは
半分が無人だった。事務所はマンションの一室だったり、元パチンコ屋だったり、いろいろだ。ただでさえ監理団体の実態は分かりにくいが、近頃は
監理団体の買収が行われることもあり、分かりにくさに拍車をかけている」
監理団体の買収? どういうことか。前出の元職員に聞いた。
「監理団体の買収は少なくない。
買主は企業や送り出し機関。監理団体に仲介手数料をとられたくないから、自分の監理団体を欲しがるわけだ。企業の中には監理団体の認可が取り消された場合の予備として、別の監理団体を用意しておくところもある。当然ながら
監査される側の企業と監査する側の監理団体が一体になっているところでは、実習生の問題は発覚しづらくなる。最近では人材派遣会社が監理団体を買収して、技能実習制度に参入するケースが増えている。送り出し機関による買収は中国やベトナムが多く、外国人が代表を務める監理団体も増えている」
監理団体は外から様子が窺えない「密室」になっている。この「密室」の中で月130億円以上、年1500億円以上ものカネが動いているのだ。そして、「密室」に閉じ込められた実習生が苦しんでいるのである。
すべての監理団体を一概に悪者扱いするわけではないが、監理団体の在り方に修正が必要なのは誰の目にも明らかである。
◆ルポ 外国人労働者第3回
<取材・文/月刊日本編集部>