ガソリン・軽油の補助金廃止に市民が大激怒。激化するエクアドルの反政府デモ

エクアドルの反政府デモ

「殺人警察」というプラカードを掲げるデモ隊(Photographer: David Diaz Arcos/Bloomberg via Getty Images)

エクアドルで反政府デモが激化

 日本では殆ど話題にならない国、南米のエクアドルで政府と市民との抗争がこの1週間余り続いている。  人口1700万人、国土面積28万平方キロメートル、首都のキトは海抜2800メートルの高地にある特異な国。現在全国レベルでデモ隊と治安部隊との衝突が激化して一部道路は閉鎖、学校は休校、商店は閉店、交通機関も止まり麻痺状態が続いている。3日にはレニン・モレノ大統領によって非常事態も宣言された。  抗議デモを最初に編成したのは先住民の保護組織「エクアドル先住民連盟(CONAIE)」とタクシーや運送業者の組合だった。そのあと学校の教師や学生なども加わった。  このような抗議デモが全国レベルで起きた理由というのはレニン・モレノ大統領が特別法を10月3日に発動してガソリンと軽油の補助金制度の廃止、公務員の20%の削減や休暇日数の半減などを発表したからであった。なぜ、それを決めたのか。IMFから42億ドル(4960億円)の融資を受けるためであった。その交換条件としてIMFからの緊縮策をモレノ大統領が受け入れたからである。

貧困層とタクシー運転手を圧迫する決定

 補助金制度はこの40年間存続していた制度で、それが政府の無駄使いであると歴代の大統領は理解していたが、誰もその制度の廃止に踏み切る勇気を持っていなかった。そのお陰で、エクアドルの燃料価格はラテンアメリカにおいてベネズエラとボリビアに次いで最も安価だとされていた。しかし、そのために政府は毎年550億ドル(6兆4900億円)の歳出を余儀なくさせられていたのである。政府の年間予算が400億ドル(4兆7200億円)という国が、それ以上のお金を補助金に充てていたのである。しかも、この補助金が必要でない富裕者もその恩恵を受け、それを利用して燃料の密売で二重の利益を上げていたということも長年発覚していた。(参照:「Al Navio」)  この制度の廃止でガソリンと軽油の価格は1ガロン(3.8リットル)につき前者は1.85ドルから2.39ドルへ後者は1.03ドルから2.29ドルという値上げになったのである。先住民ら貧困者にとってこの値上げは彼らの生活に重大な影響を及ぼす。またタクシーや運送業者の間でもコストアップに繋がる。また、この燃料の値上げによってそれを燃料としている生産業者にとっても生産コストの上昇を招く。(参照:「RT」)  ということで、先住民連盟がこの政府の決定に抗議を始めたのであった。エクアドルの人口の7%は先住民で構成されている。彼らの人権を守るために1980年代に生まれたのがこの組織である。この連盟の影響力は絶大で、彼らの政府への抗議が発端となって1990年代に二人の大統領の解任を導いたほどであった。  先住民に続いて燃費が利益に直接影響するタクシー業者や運送業者もそれに追随した。
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モレノ大統領が抱えていた2つの「爆弾」
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