さてここで、彼ら関電被害者論者達が根拠文献として提示、紹介、照会してきた
短冊のような切り抜き(羊羹コピペ)と、
7割近くモザイクがかけられている切り抜き(モザイクコピペ)をご紹介します。
モザイクコピペ
原発のある風景(3) 病める町政 柴野徹夫1982/08前衛 日本共産党pp.217-236抜粋箇所はpp.226-227(引用率は全体の4%)
羊羹コピペ
原発のある風景(3) 病める町政 柴野徹夫1982/08前衛 日本共産党pp.217-236抜粋箇所はpp.226最上段(引用率は全体の1%)
このコピペの原典は「
原発のある風景」という記事で、「『赤旗』記者告発ルポ」として日本共産党の機関誌「前衛」に長期連載された傑作ルポルタージュです。『原発のある風景(上)(下) 』(柴野徹夫著)として83年に未来社から出版されています。この本はたいへんに有名なもので、古いながらもきわめて資料価値が高いものです。今日でも大学図書館、公立図書館に多く収蔵されています。
実は筆者は、この『前衛』に掲載された当該記事を確認するためにHBOL編集部を介して文献複写で取り寄せ、航空写真、原子力学会や土木系学会、建築系学会の論文と徹底的に照合していたのですが、その過程で1983年に高校の図書館で単行本を読んでいたことを思い出しました。
筆者は知りませんでしたが、この「原発のある風景」は、原子力問題界隈では「神本」という評価もあり、この下巻でスッパ抜かれている
「関西広域原発極秘計画」は、すべての新規原子力発電所立地計画が露見する切っ掛けとなり、その後すべての立地計画が失敗するなど、伝説の域にあるそうです。
当時の原子力推進超強行派少年(筆者のこと)の目には映らなかったことです。そして今回、美浜発電所と高浜発電所に関する工事についての箇所を様々な学術論文や航空・衛星写真、資料と共に精査すると、こと発電所の歴史としてはきわめて良く取材されていると評価できます。
このモザイクコピペと羊羹コピペで森山氏の出自を暴き、「関西電力被害者論」の論拠とされていますが、とんでもないことです。
このルポルタージュは、前半が美浜町と美浜発電所、後半が高浜町と高浜発電所について書かれています。高浜町については、pp.223-235と半分以上が割り振られています。
モザイクコピペは、高浜町についての記述が始まって、4ページ目に該当します。ここで、モザイクコピペも直前の記述を提示します。
原発のある風景(3) 病める町政 柴野徹夫1982/08前衛 日本共産党pp.225
モザイクコピペはこの部分に直接続いている
モザイクコピペは、この引用箇所に直接つながります。要するに、モザイクコピペの中見出しは
「関電直結の暴力行政」であり、小見出しは
「初の共産党町議」なのです。
更に、高浜町の部分pp.223-235についてすべての見出しを列挙します。小見出しを(括弧)にいれます。
高浜町―関電協力金九億円の怪(掌の文字)(潮騒)
関電直結の暴力町政(初の共産党町議)(生けにえ)(土下座)
仕組まれたワナ-瀬追い落とし劇(押し問答)(糾弾のワナ)
乱脈・腐敗行政を告発する共産党町議(「新たかはま」)(選挙の怪)
明るみに出た悪事―三事件の概要(支配の黙示録)(錬金術)(焼身自殺)(国有地奪取)(農協の不正融資)
このルポは、
関西電力が町長はじめ地域ボスを資金と便宜を用いて完全に取り込み、町長などの町の幹部が町政を私物化する、そのうえでの暴力装置として地域ボスが動いているという文脈であって、
「関西電力は被害者」であるという論拠には使えません。
「関電被害者論」の論拠となるのは、地域ボスであった故人の出自以外何もありません。従って、
「関電被害者論者」は、故人の出自のみをもとに、「関西電力は、故人の出自による利権、「同和利権」の被害者である。」と無根拠で広言していることになります。証拠が提示できない以上、これは明確かつ典型的な差別言論です。
「関電被害者論」には根拠がないのです。
当時の町長や故人である元助役やの権力の源泉は、お金と便宜です。そしてそれらは、関西電力からの莫大な資金と便宜供与によるものであり、それによって
高浜町は関西電力により支配されていたというのが
『前衛』1982年8月号掲載の「原発のある風景(3) 病める町政 柴野徹夫」の論旨です。
この、電力会社だけでなく大企業、国などによる首長や地域ボスの取り込みと便宜供与、地域ボスを代行者(歯止め無き暴力装置)とした暴力的な地域支配は、
原子力・核施設立地点、計画地点、米軍基地、四大公害を代表とする公害問題などでは、失敗を含めかならずと言って良いほど見られるものです。
これらは常識的には寄付や、随意契約や官製談合による水増し発注などによりおこなわれ裏金が創られます。さらには顧問や相談役としての地位提供も使われます。これは
開発独裁国における腐敗の典型事例と共通です。
地域ボスは、得た裏金や便宜からキックバックを提供します。裏金が数十億円規模になればキックバックは億単位になります。そして、キックバックはさらなる裏金になります。地域ボスにとってキックバックは、将来切り捨てられ、裏切られる事への抑止と言う意味も持ちます。
資金還流にあたっては、領収書のないお金だけでなく、美術品、貴金属、商品券、外貨など足の付きにくいものが用いられますが、その代表的なものが
小判や金貨、スーツ仕立券*、ドル紙幣であることは常識と言って良いです。今回話題となった小判は、金地金と違い刻印、地金番号が無いために足が付きにくく、金の含有率が高い(亨保小判では約87%、万延小判ですら57%)ために換金性、流通性に優れます。
<*
贈収賄の「定番」スーツ券なぜ今回も使われた? 関電金品受領2019/10/04 毎日新聞>
従って、このような資金還流構造は、
関係を白日の下にさらして完全に絶ちきるまで半永久的に継続するものです。
直截な表現をすれば、この資金還流は
民間の場合、「特別背任」に該当する可能性が高いです。こういった関係が数十年続けば、企業の腐敗は上から下へと拡大します。今回、関電社員への金銭授受も報じられていますが、これは「背任」の可能性があり、きわめて深刻です*。
<*
関電・原発マネー:/上(その2止) 金品まみれ、倫理まひ 元助役と相互依存深め2019/10/07 毎日新聞>
今回露見した
高浜原子力発電所を中心とした関電役員・社員を対象とした資金還流事件は、典型的且つきわめて大規模な特別背任、背任を疑うのが順当なものの見方です。
これを「故人である地域ボスが、関電役員・社員へ金品供与するという”利権”であり、関電は被害者」という理屈は、全く成り立ちません。この屁理屈を正当化する道具として、故人の出自暴きを利用しているわけで、
きわめて悪質で幼稚な差別言論と断ずることが出来ます。しかも「死人に口なし」を良いことにやりたい放題です。
そもそも故人の出自を暴いたところで、屁理屈は屁理屈でしかありません。