スペックばかりを重視し、お客さんに理解してもらえなくなった
スペック重視社会は、これまでのゲーム業界も同様だった。
「ゲーム業界全体も、技術の発達にあわせてどんどんクオリティが上がっていった。データ容量が増えたことがそのまま宣伝文句になった。『100メガショック』というコピーがあったほど。
ポリゴン(立体を構成する平面)も10万枚から100万枚に、計算機の性能がどうのこうのと、お金をかけて競っているうちに、いつのまにかお客さんから理解してもらえなくなってしまった。
お客さんからの『これは楽しいのか?』という疑問に対して、スペックだけではうまく答えられません。そういう世の中の状況でしたから、『家族で楽しめる』という価値を掲げた任天堂のWiiは支持されたのではないかと思う。
私はゲームで笑ったり泣いたりして育った人間ですが、一方で、本当にお世話になったばあちゃんはゲームを嫌っている。ゲームなんて生活必需品ではないので、別に誰も買わなくても生きてはいける。長男なのに京都の任天堂で働いているという状況もあいまって、ゲームに対する罪悪感が私の一大テーマとしてありました。
Wiiのプロジェクトに入れてもらって、チームで開発を行いました。Wiiを作ったら自分が幸せになれるという感じがした。Wiiができた後、実際にばあちゃんの前でWiiをやりました。ばあちゃんとゲームに少しでも恩返しができたかどうか」(同)
今は、スペック重視社会から体験重視の知的生産社会への転換期なのかもしれない。
<文/松井克明>