この強烈な体験は、SNSでプライベートをさらけ出す・のぞくという行為が支持されていることにもあてはまる。この体験を、玉樹氏は「つい体験」と呼ぶ。
「僕自身、お客さんの心を動かす体験をデザインしようとするとき、『
その体験は性格が出るだろうか』というのをひとつの指標にしている。たとえば、スペック(性能)が低くてもなぜか買ってしまうことがあります。
ハイスペックでもないし、かといって安くもない。でも、なぜか使っているときに心が和む。そんな時、きっとそこには
『ついやってしまう』『つい夢中になってしまう』『つい誰かに言いたくなってしまう』という体験デザインがあるんです。
スペック重視のモノ作りの現場でこういったことを話していたら、張り倒されるかもしれません。でもスペック以外の部分も大事だと思う、というのが僕の立場です」(同)
玉城氏の最新刊
『「ついやってしまう」体験のつくりかた』(ダイヤモンド社)では、時代が大きく変わりつつある中での『つい体験』の重要性が語られている。
「これまでは、スペックが高いことはいい、理由なしにいいんだという世の中だった。作り手から見れば、スペックは自らの不安を消し去ってくれる麻薬みたいなもの。しかし、スペックは不安を消す代わりに原価を吊り上げる。
要は、原価をあげてものを売る、どこまで高くできるかはチキンレース、という非常に狭く辛いアプローチで商品をつくってきた。しかし、いよいよスペック重視だけではモノが売れなくなってきた。
だからこそ『デザイン思考』とか『人間中心設計』といった新しい言葉で、『デザインが重要っぽいよ』という話は出てきている。ただ、デザインというと『カッコいいものを作ること』という矮小な解釈がされやすい。
でも、カッコよさはデザイナーが考えていることの1%にも満たないということを知っていただきたいと思う。
デザインとは意図のある表現、もしくは意図をもって表現する行為のこと。
デザインという知的生産を日本中の働くみなさんがやりはじめたら、スゴイことになる。スペックという意図もなければ性格も出ないものから少し離れて、体験をデザインするという考え方を広げたい」(同)