タイに渡った日本の機関車。あまりにも手探りな導入に日本人のおじさん2人が立ち上がる

車両とともに届いたのは薄い日本語のマニュアルだけ

タイの東北地方の駅

東北地方の農村にある駅は一見複線化しているが、駅の前だけで本線は単線になる。

 DD51ディーゼル機関車の導入は、この計画がバラストを運ぶ高出力機関車を求めていたためだという。ただ、タイの軌間(レールとレールの間の幅)は1メートルのメーターゲージと呼ばれる幅が採用されている。韓国や中国、欧米などは標準軌(軌間が1,435ミリ)なので、それに合わせて作られた車両は改修・改造が困難だ。日本は鉄道会社によって違いはあるが、JRは1,067ミリのため、車両をそのまま利用できないものの、改修はあまり難しくない。タイに到着したDD51は軌間に関しては何の問題もなかった。  これによってタイ国鉄の計画が予定通りに行くことが期待されていたのだが……。  実はその一方で大きな問題も抱えている。車両が本領発揮できる環境が依然整っていないのだ。  複線化の一部はタイ国鉄から請け負ったインフラ工事を担う企業「A.S.ASSOCIATED ENGINEERING社」(以下AS社)が担当する。車両はノンプラドゥック駅に隣接する基地にあり、車両購入もタイ国鉄ではなく、このAS社がJR北海道との間に立つ商社から輸入した。本来ならタイ国鉄が購入しAS社がレンタルしたいところだが、予算がない上に常に車両不足のタイ国鉄ではそれができなかったと見られる。  問題は、納入時に車両と薄いマニュアルが渡されただけで、AS社にはDD51の運行や整備に関する技術的な情報が大きく不足していることだ。

タイ在住の日本人が翻訳を請け負ったが……

 この事実を初めて外部に発信したのがタイ在住の木村正人氏だ。SNSでAS社にDD51が入ったことを知り、ノンプラドゥック駅に見に行ったことがきっかけだ。 「昨年、DD51型機関車がタイに入ってきたという情報がSNSで流れ、すぐに現場に行きました。そして、この機関車を所有している会社の車両担当者に表示類の翻訳をお願いされたのです」  木村氏は操作盤や表示板のタイ語化を進め、日本の旧国鉄の元運転士から聞いた情報を元に運転マニュアルをタイ語で作成した。日本語でさえ難しい専門用語をタイ語にすることは困難だ。木村氏は「専門用語は知らないので、意味が正しく通じればOKとしています」というマニュアルではあるものの、AS社は助かったに違いない。  しかし、AS社の技術者たちは手探りで整備や運転をしていることに変わりはなく、不安が残っている。  2018年9月に木村氏が最初にノンプラドゥック駅に隣接するAS社の車両基地を訪問した様子を、氏が管理しているYouTubeチャンネル「鉄道タイランドCH」に上げたところ、反応があった。九州の鉄道ファンクラブ「長崎きしゃ倶楽部」を主催する、鉄道ファンの吉村元志氏だ。吉村氏は木村氏に対し「すぐに行きます」と呼応し、同年10月にタイにやって来た。
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