ならば、この台風襲来と計画運休のトラブルは、今後も繰り返されてしまうのだろうか? 境氏は「そもそも、『計画運休』などという言葉を使うからおかしくなる」と指摘する。
「計画運休は’14年にJR西日本が初めて実施しています。10月の台風19号に際して行ったもので、一定のエリアの運休を事前に告知して実際に運転を見合わせた。ただし、このときには実際には台風は直撃せず、いわば“空振り”に終わったのです。しかし、事前に告知したこともあって運休は“計画”通り行われた。以降、計画運休という言葉が広く使われるようになってきました」
しかし、少しずつ言葉の持つ意味が変わってきているというのだ。
「最近では計画の有無は度外視して、台風が来るときの鉄道の運行計画そのものを“計画運休”と呼ぶ傾向が特にメディアの間で強くなっています。ただ、もともと台風が来れば風速や雨量が基準値を上回ることは間違いないので、運休するのは当たり前。そして今も千葉県では一部線区で運転見合わせが続いていることからもわかるように、台風が過ぎ去っても被害があればすぐに運転再開はできない。そんなことは昔から当然のことなのです。すべての鉄道の事業者は、台風襲来が予想されれば事前に運休の可能性も含めた計画を立てていました」
たしかに、「計画運休」という言葉が登場する前から台風が来れば会社に行くにはどうするか、夜中に通過しても朝は電車が乱れているかもしれないな、などと誰もが考えていたはずだ。ところが、「計画運休」が独り歩きした結果、近年のようなトラブルを招いているというのだ。
「“計画”を冠する言葉を使うことで、利用者に『計画しているのだから予定通り運転再開するだろう』と誤解を与えているのではないでしょうか。もちろんここ数年は台風に限らずゲリラ豪雨などの自然災害の激甚化が激しく、頻度も多くなっているのは事実です。そのため、鉄道各社も想像できないような被害が出ている。けれど、“計画”運休なのであればそれも計画のうちに含まれていると利用者が思うのも無理はない。ですから、思い切って社会活動そのものをストップさせるリスクも背負って余裕のある運休を発表するか、そうでなければ“計画運休”などという言葉は使うべきではないと思います」
実際、鉄道会社自らが「計画運休を実施する」と言っているケースは意外に少ない。単に「台風による影響で運転を見合わせる」「台風の影響で午前8時ごろまで運転を見合わせて線路などの点検を行い、安全が確認されたら再開する」と言っているだけだ。
ところが、メディアがこぞって「計画運休」という言葉を持ち上げる。結果、それが利用者に誤解を招き、混乱を呼ぶ。メディアとしても鉄道会社が運転再開時間を発表しているのだからそれを報じているだけなのだろうが、それでは本来の役割を果たしているとは言えないだろう。
境氏は、「首都圏のように利用者数も路線の数も多く、相互直通運転によって運転系統も複雑になっているところでは混乱をゼロにすることは難しい」としたうえで、次のように提言する。
「まずは鉄道各社にはより丁寧な説明・情報提供を求めたい。台風が来ればどのような被害が想定されるのか、そしてその被害から復旧するにはどれだけかかるのか。そうした情報を事前にしっかり伝えることが重要です。ただし、こうした情報はツイッターなどで利用者に直接伝えるとかえってわかりにくい。そこでメディアがこうした情報も含めてしっかりと報じるべきです」
単に「午前8時頃に運転再開するとしています」とニュースを読むのではなく、「これだけの台風だから、被害が見つかって運転再開がずれ込む可能性も」などとより具体的に報じていれば、今回のような混乱は少しでも軽減させることができたかもしれない。これからやってくる台風や自然災害では果たしてどうなるか。「そもそも自然災害が起これば交通が混乱するのは当たり前」(境氏)であることを肝に銘じ、利用者ひとりひとりがしっかりと情報を得て適切な判断をする必要もありそうだ。
<取材・文/HBO編集部>