組合潰しにどう抵抗するのか。違いを乗り越えて連帯しなければならない<鎌田慧×竹信三恵子・後編>

提供:全日本建設運輸連帯労働組合

横行する「組合潰し」

 労働組合員が相次いで逮捕される事件が起きている。組合員の正社員化を求めたり、作業現場でコンプライアンスを遵守するよう求めたりする活動が「強要未遂」や「恐喝未遂」に当たるとされ、セメントやコンクリート業界で働く人の組合である「関西生コン」の組合員延べ80人近くが逮捕されているのだ。  労働組合に加入して労働条件や職場環境の改善を求めることは、働く人にとっての当たり前の権利だ。それにもかかわらず、組合活動を口実に逮捕される事件が相次いでいるのはなぜなのか。  弾圧の経緯について触れた前編に続き、『自動車絶望工場』(講談社)や『六ヶ所村の記録』(岩波書店)で知られるルポライターの鎌田慧さんと『ルポ 賃金差別』などの著作があるジャーナリストの竹信三恵子さんが、事件の背景と、いかに抵抗していくかについて語り合った。 【前回記事】⇒関西生コン弾圧はなぜ起きたのか?希薄化する働く人の権利意識<鎌田慧×竹信三恵子・前編>

労働組合の組織率が低下し続けている

 鎌田:労働組合の組織率が17%にまで落ち込んでいて、ほとんどの人が組織されていないのが現状です。働く人は、「労働者の学校」というべき、労働組合に加入した経験がないんですよね。  そのわずかに組織された人々ですら分裂してしまっている。連合の中でも、自治労や日教組が原発ゼロを掲げる一方、電力関連産業で働く人たちの組合である電力総連は原発の再稼働を求めています。それぞれが支援する政党も立憲民主党と国民民主党に二分されてしまっている。以前は、露骨な自分たちの利益を守るためだけの労働組合ではなかったはずです。  竹信:そうした状態が一般の人たちの労組への冷めた目につながっているのかもしれません。  組合員の数そのものは横ばいから微減傾向程度にとどまっているのに、組織率が下がり続けているのは。新しく増えた働き手たちが労組に入れていないからです。  たとえば、働き手の5人に2人近くにまで増えた非正規雇用の労働者はほとんど組織されていない。組織率が低いうえに、そこに入っている人たちの多くが大手企業の正社員たちです。この人たちは非正社員を管理する側だったりするんですよね。本来の労組のユーザーであるはずの、一線で厳しい仕事を担う働き手が、まとまって声を上げる場所ができていないんです。

出典:平成30年労働組合基礎調査の概況

 「労働者」って、ただ働いている人、というのではなく、労組などに支えられて学び、自分で考え、雇う側に対して臆せずモノを言えるようになった人のことだと思うんですよ。そうした場が縮小したため、人間が組織を生かして動くためのノウハウを知っている人も激減しつつあるのではないかとも感じます。  何かを成し遂げるためには、決められた日までに決めたことをやっておく力や、自分たちの言い分をちらしなどで宣伝する力など、束になって動ける訓練も必要です。それらを自主的に、会社の命令でなく身に着けていく教育の場がなくなってしまったので、社会運動をやろうという人たちですら、そういった力が弱まっており、物事を進められない。これは、実は会社にもマイナスのはずです。働き手の自主性をつぶしすぎた結果ですね。  北海道・夕張に調査に学生と出かけ、炭鉱労働者だった語り部的な男性に話を聞いたら、文学からソーシャルダンスまで、全部、組合活動の中で学んだと言っていました。「現場で何かあったら自分でなんとか工夫する。それが労働者」と彼がいうのを聞いて、男子学生が「かっこいい! 僕らのお父さんとかには、そういう感じがない」というのです。このように、労働組合は人々を教育する役割を担っていたんだと思います。  労働組合が弱まり、社会がこのような機能を失ってしまったことが、連帯ストが打てないことの遠因にもなっているのでは、と薄気味の悪さを感じます。 鎌田:労働組合の文化運動は日本の社会の草の根としてあったわけです。大きい組合や産業別組合には、機関紙や機関誌がありました。支部や分会の新聞もありましたし、そうした教宣活動が盛んだったのです。文学雑誌もそれぞれ、全逓、全電通、国労、動労、日教組、自治労とあって、末端まで文学サークルがあってそれぞれ機関誌があったわけです。  それから労働組合でレクリエーションもしていました。しかし組合の文化活動もレクリエーションも全て企業に吸収されていったわけです。  また、高度経済成長期には、労働組合が中央一括方式で交渉していたので、下部は何もしなくても賃金が上がったんですよ。労働組合の力が強いときは、それこそ靴でテーブルを3回くらい叩けば、最高で3万円くらい上がったことがあるんですよ。ただ下部は日常的に何もしなくてよかったので、運動が崩壊してしまったんです。それもあって文化活動もなくなっていってしまった。  サークル活動もないから、日曜日に集まるということもなくなってしまい、企業のQC活動に取って代わられてしまいました。労働組合の組織が会社の組織に変えられるというのがずっと進んできました。積み上げられてきた労働組合による教育が機能しなくなってしまったんです。今でも文化運動が残っているのは、私鉄総連や日教組、自治労くらいでしょうか。
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「勝つためには異論があっても連帯する必要がある」
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