組合潰しにどう抵抗するのか。違いを乗り越えて連帯しなければならない<鎌田慧×竹信三恵子・後編>

働き方改革法案と関ナマの弾圧

竹信:働き方改革関連法は、一つの象徴だと思います。1日の労働時間は8時間までというのが国際原則は、人間が人間らしく暮らすために、労働運動が勝ち取ってきたものです。これまでの労基法の労働時間規制は、これだけでした。  ところが「改革」では、労使協定を結べば特例として、「過労死ライン」ぎりぎりの月100時間未満まで残業させていい、と労基法に書き加えてしまった。あまり意識されていないようですが、「人間らしく働ける労働者」から「死ぬ寸前まで働かせていい生産の道具」への大転換が行われた気がします。一定の業務と年収の社員なら労働時間の規制から外されてしまう高度プロフェッショナル制度についてもそうです。 「同一労働同一賃金」についても、最高裁で非正規労働者にも手当が認められた、と騒がれていますが、あの仕組みでは基本給の是正はほぼ無理です。長澤運輸訴訟の最高裁判決では、まったく同じ仕事で定年になったとたんに賃金が下げられたことについて、不合理ではないとされてしまいました。「やった仕事」について客観的に比較するものさしをつくることで、会社側の差別や偏見を是正するのが国際的な基準ですが、働き方改革では、会社側の仕事への判断権や裁量権を大幅に認めてしまっているので、基本給の差別を是正しにくく、判断にかかわりない手当などでないと是正できない仕組みなってしまった。  また、関生事件は、労使交渉の権利を保障した労働三権を、「恐喝で逮捕」といった形の読み変えによってチャラにしようとしている。みんな振り出し、ここからやり直す、という決意が必要ですね。 鎌田:同一労働同一賃金という言い方も危ないですよね。一体、どこに統一するのかという論点がこれから出てくるわけです。「非正規」という言い方をせぬよう、などと菅官房長官が言ってます。 竹信:低い非正規の賃金水準に統一されていかないよう、監視しないといけないですね。

「勝つためには異論があっても連帯する必要がある」

鎌田:やはり社会全体に「抵抗する」という思想がなくなっているんだと思います。「造反有理」という言葉がありますが、今は「造反」すると潰されてしまいます。辺野古移設に抗議していた山城博治さん(※)は5か月も拘留されていました。 (※ 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に抗議し、器物損壊などの罪に問われた。山城さんへの拘留に対し、国連は「恣意的な拘束」に当たり、国際人権規約違反だとする見解を示している。)  現在、圧倒的な攻勢が来ています。裁判所や警察は権力を強化して主導権を握ろうとしている。私たちはどう抵抗していけばいいのでしょうか。やはり小さな規模でもいいので、まとまってお互いに支えあっていくしかありません。個々人が信頼し合って、労働者の集団を作り、そこに市民も入っていく。それを各地で作って、つながっていく必要があります。  今の状況を変えていくためには、かつてのように、対立している場合ではありません。共産党は「自分たちこそが前衛」だと考え、他の人々にレッテルを貼って排除してきました。新左翼の党派である中核派や革マル派も、自分たちとは異なる人々を排除して内ゲバまでになった。今の状況を変えるためには、異論があっても連帯して、とにかく一緒にやっていく広い心が必要となっています。  今、国民民主党が立憲民主党に統一会派の結成を呼び掛けていますが、原発問題がネックになっていますね。でもこんな風に分裂している場合ではありません。 竹信:リベラル陣営の中での対立が激しくて、何かをやろうとしても、別の人たちから叩かれてしまう。どこかの団体に所属すると、別の団体から批判されるから、運動もやりにくくなってしまう。  私たちは、非正規公務員の女性たちの待遇問題をテーマにしたシンポジウムを9月22日に開催する予定です。非正規の公務員は、4分の3が女性なんですよ。おそらくそこに、何らかの<差別>がある。ここでも、男性を排除して女性だけ固まるのは運動を分断するという声をよく聞きますが、声を出しにくい立場にある当事者は、まずは当事者だけで話し合って、互いの連帯を確かめないと、モノが言えなくなってしまう面もあるのです。 鎌田:排除するのではなく、いろんな人を入れていく。異論に耳を傾けるという姿勢が必要です。それなのに市民運動もセクト化して新しい人に冷めたかったり、意識が低いといってすぐに排除してしまったりする。  勝つためにはどうすればいいのかということを考えなければなりません。韓国や香港、台湾は、それなりの統一闘争の成果が出ています。日本は一人一人が個人として結びつく運動が弱いと思います。 竹信:反ナチ活動で知られたニーメラーという牧師が、こんなことを言っています。共産主義者から社会民主主義者、労働組合員、ユダヤ人とナチの弾圧の対象が広がっていったとき、そのつど、自分はそうした人たちではないからと知らん顔し続け、最後に自分のところに弾圧が及んだ時、自分のために声を上げてくれる人はだれもいなくなっていた、というのです。現在、リベラルなものを排除しようという動きがあちこちで出てきています。例えば、右派の議員が、政府の助成を受けたフェミニズム研究について、「反日」などと中傷したとして、大阪大学の牟田(むた)和恵教授らが名誉を傷つけられたとして損害賠償請求の訴訟を起こしています。  関ナマへの弾圧、辺野古の反基地活動家の逮捕、フェミ科研費への名誉棄損。いずれも攻撃のされ方には共通点があります。人間の自由や尊厳を奪われないために、ニーメラーの教訓を生かし、それぞれの運動がつながっていく必要があると思います。 <構成・注/中垣内麻衣子>
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