アルゼンチンやパラグアイなどでは、2000年頃から大規模に遺伝子組み換え大豆が栽培されるようになった。小型飛行機でラウンドアップの空中散布が行われるようになると、周辺住民の間で小児がんや先天異常、皮膚障害などが増えてきた。
ラウンドアップは「分解も早く催奇性がない」と言われてきたが、2010年にブエノスアイレス大学のアンドレス・カラスコ教授(医学部・分子胎生学研究所長)らが、「カエルや鶏の胚で実験した結果、極めて低い濃度であってもラウンドアップが先天異常を引き起こした」との研究結果を発表した。
さらに、大豆栽培が盛んなアルゼンチン・チャコ州政府は「グリホサートと、小児がんや脳腫瘍、先天異常などの発生は関連がある」とするレポートを発表している。
グリホサートは2015年にWHOの専門機関(IARC=国際がん研究機関)によって発がん性物質に分類された。2017年には、ロンドン大学の研究チームが「超低濃度のグリホサートでも、長期間摂取すれば脂肪肝を引き起こす」という研究結果を発表している。
2019年8月、産科医の国際組織である国際産婦人科連合(FIGO)は「グリホサートはガンや神経発達障害、先天性欠損症との関連が疑われる。またメチル水銀同様、胎盤を通過する可能性があり、予防原則の立場から使用を避けるのは社会的責任である」として、グリホサートの使用禁止を勧告している。
20~30年にわたって大量に使い続けてきたグリホサートは、パンやパスタだけではなく、水道水やワイン、ビールや蜂蜜など、さまざまな飲食料品から検出されている。米国では子どものワクチンからも検出されて、母親たちに衝撃を与えた。
アジアではベトナム、スリランカがグリホサートの輸入を禁止、EUではオーストリアやドイツがグリホサートの全面禁止を決めた。フランスは2023年までに段階的に廃止する。チェコは2018年収穫前にグリホサート散布を禁止、デンマークもすべての作物の出芽後の散布を禁止している。イタリアは公共の場での使用を禁止、ベルギーやオランダは専門家以外への販売を禁止した。
ブラジルは昨年、連邦裁判所が「連邦政府が毒性を再評価するまでグリホサートの使用を禁止する」と決定。その他の国や地域、自治体、学校などでも、グリホサートの使用禁止や削減に取り組み始めている。インターネットの署名サイト「アバーズ」は、グリホサート使用禁止を求める署名を実施、全世界から140万件もの署名が集まったという。
それに比べて、日本政府は何の対策を取らないばかりか残留基準値を緩和、その使用量も増加している。日本の多くの環境NGOなどは「世界中で使われなくなったラウンドアップが日本に集まってくるのではないか」と恐れている。
<文/上林裕子>