デモには参加しないものの、影で彼らを支え続ける香港市民も多い。少々さかのぼるが7月には、ある金物屋の投書が香港のネットメディア『
立場新聞』に掲載され、話題になったという。Rieさんに翻訳してもらったので読んでみてほしい。
金物屋さんの投稿があった「立場新聞」。香港市民の間では知らない人はいない人気ネットメディア
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「このガスマスクで催涙ガスは防げますか?」
これが、この6月に最も多く聞かれた、最も答えが難しい質問だった。
6月12日の朝、全香港がストライキの空気に満ち溢れていた。私が働く金物屋の電話やケータイのWhatsAppは鳴りやむことがなかった。平日はほとんどのお客さんが工事か内装の職人だが、今日は防護用の道具を買いたいという青年ばかりだ。
店に着くとすでに中学生グループが店の外で待っているのが見えた。彼らがもぞもぞしていたので店の同僚が声をかけると、小さな声で「ヘルメットがほしい」。同時に、少し恥ずかしそうに、「僕たち、中学生で……お金がなくて、少し安くしてもらえませんか?」と言ってきた。
当時の金鐘(註:政府庁舎が集中するデモの中心地)の雰囲気は緊迫していた。多くの人が防護用道具を買いに来た。ある人は一人で100個近いヘルメットを買っていった。一度には運べないので、汗をかきながら蟻のように少しずつ運んでいった。
物資ステーションは撤去されたが、物資を販売する金物屋は商売だから干渉されることはない。
私たちは物を売るとき、使い方を聞くことはない。敏感な質問には答えない。こういった中立の態度で通常どおり営業している。
しかし、こんな白黒逆転した今の香港では政治的理由によってリサイクル倉庫でも武器倉庫として摘発された例がある(過去のニュースより)。この金物屋だって、いつどんな危険な立場になる覚悟しなくてはならない。
6月12日のあと、状況は激化した。毎晩営業時間を延長した。
デモ参加者たちはみんな自分の身を守る道具の問い合わせばかりをしてきて、警察と闘う武器を買いたいという問い合わせは一つもなかった。マスク、ガスマスク、フィルター、ゴーグル、ヘルメットなどの防御用の道具は飛ぶように売れた。しかし、店内にある刃物やノコギリ、金づち、スパナ、ペンチ、電気ドリル、ガソリン、シンナー、研磨機、電動ノコギリなど、攻撃性のある道具は売れるどころか、置いてあるかと聞かれることすらなかったし、誰も一瞥もしなかった。