芸術を語れる政治家がいない日本は文化芸術立国になれるのか?

文化庁が打ち出す「文化芸術立国」を実現するためには

 文化庁が打ち出す「文化芸術立国」は、日本の文化芸術を世界に発信し、経済への波及効果を生み出すべく掲げられた言葉だ。  2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは、日本の文化や芸術の魅力を国際社会へアピールするまたとない機会になるだろう。  しかし、文化庁と異なり、政府はむしろ「観光立国」を目指すための国家戦略に力を入れている。2020年には、訪日外国人観光客を4000万人にする目標を掲げている一方、文化芸術立国という視点で経済振興に繋げようという関心は薄く、具体的な案や施策はないのが現状だ。  そんな中、9月7日に文化芸術立国の可能性を語るイベントがMISTLETOE OF TOKYOにて開催された。INERTIA主催のもと、「美術手帖」編集長の岩渕貞哉氏や文化庁の文化経済・国際課の林保太課長補佐、慶應義塾大学環境情報学部の脇田玲教授が登壇し、文化芸術立国を目指す上での議論が交わされた。

文化芸術の領域は、国政の優先順位が低い

林保太さん

 まず、文化芸術立国の定義について文化庁の林氏は次のように述べた。 「経済的に回っているという意味のほか、世界中からアーティストが集まってきて、新しい才能がどんどん芽生える土壌を育むこと。才能を開花させて、活躍できるアーティストを生み出していくことが、文化芸術立国として果たすべき役割だと捉えている」  文化庁では1997年からメディア芸術祭を行っていて、アーティストや作家に発表の場を提供し、新たな才能の発掘に取り組んできた。  この取り組み自体は、才能溢れるアーティストを輩出するために意義のあるものだろう。しかし、文化庁全体で見ると、アーティスト支援や発表機会の提供よりも文化財保護に重きが置かれているのだという。 「国の政策の優先順位が上がらなければ、これ以上の進展は難しい。文化庁は2008年より文化芸術立国を掲げているが、観光に比べて経済発展と結びつけて文化芸術を語れないがゆえに、ここ最近は動きが停滞している」(林氏)
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美術を語れる政治家の存在が不可欠
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