店が増えても買い物難民!?「食強化」に挑むドラッグストア、「業態拡大」のその先にあるものは

「業態拡大」続くドラッグストア――薄まる「スーパー」との垣根

 一方で、そうしたなか少し異なった動きを見せているドラッグストアもある。その1つが、現在業界第4位となっている「サンドラッグ」だ。  サンドラッグは2009年に佐賀県の家電量販店を祖とするディスカウントストア「ダイレックス」を傘下に収め、その後は食品や生活雑貨の取り扱いを拡充。やがて、西日本を中心にディスカウントストア+ドラッグストアに新たに生鮮食品を導入した「ダイレックス」屋号の新業態店舗の出店もおこなうようになった(一部店舗は生鮮なし)。店によっては売場面積3,000~4,000平方メートルほどの規模のところもあり、もはや「ドラッグストア」とは言えない雰囲気だ。2018年度には、サンドラッグの全売上(連結)の4割弱をこのダイレックスが占めている。  さらに、ダイレックスは新業態店舗を展開するに当たって大型空き店舗への居抜き出店を積極的に活用。ディスカウントストアとドラッグストアのノウハウを合わせた価格競争力を武器に、とくにここ数年はドラッグストア等との競争により閉店したスーパーの跡や、核テナントが撤退した中心市街地の核店舗や地域主導型商業施設に新たな核として「総合スーパーに近い業態」で出店する例が相次いでいる。つまり、ドラッグストアが業態拡大した結果、その店舗が「スーパーマーケット(大型空き店舗)を、そして買い物難民を救済する側」になっているのだ。  同社は2018年には群馬県のショッピングセンターに出店していたセブンアイ系スーパー跡にも核テナントとして出店しており、今後は東日本でも「ダイレックス」の大型店を見かける機会が増えるかも知れない。
ダイレックス

地域主導型ショッピングセンターの核テナントとして出店するダイレックス(宮崎県日南市)。
もともと入居していたスーパー跡に出店。薬はもちろん、生鮮食品から家電までも販売する。

 このほか、中部地方を中心に展開する「ゲンキー」(本社:福井県坂井市)も2017年より青果・精肉売場を充実させた「フード&ドラッグ業態」の展開を開始。2019年現在は半分以上の店舗に青果・精肉売場(鮮魚は干物など加工品のみ)を備えているほか、大型店では菓子などの品揃えも拡充されており、「ドラッグストア」というよりも「薬も買えるスーパーマーケット」というべき商品構成へと生まれ変わっている。また、同社のライバルである「クスリのアオキ」(本社:石川県白山市)も一部店舗のみではあるが2012年より青果・精肉・鮮魚の導入を開始。近年は生鮮導入店舗を増やしつつある。  この両社はともに北陸の地方都市を拠点としており、中山間地域にも多くの店舗を持つため「地区唯一のチェーン店がゲンキーやアオキ」というところもある。そうした地域では、両社の「生鮮食品強化」による買い物難民発生阻止への期待も大きいであろう。
ゲンキー

「ゲンキー」は中山間地域にも多く出店(福井県)。
ここは同業他社向かいへの出店であったが、「生鮮品販売」で差別化を図る。

業態拡大を続けるドラッグストア

 経営規模のみならず「業態」としても拡大を続けるドラッグストア。  経済産業省が2014年に「ドラッグストア」の売上統計を開始して僅か5年だが、もはや「ドラッグストア」という業態の定義づけさえも難しいものとなっている。
百貨店・スーパー・コンビニ・ドラッグストア(調剤以外)の売上高推移

百貨店・スーパー・コンビニ・ドラッグストア(調剤以外)の売上高推移。経済産業省商業動態統計を基に作成。
注:商業統計におけるドラッグストアの定義「売場面積の50%以上について、セルフサービス方式を採用している事業所かつ、医薬品・化粧品小売業に格付けされた事業所で、医薬品(調剤薬局を除く)の取扱いがあること」

 元を質せば、かつて日本最大手であったスーパー「ダイエー」も薬局を発祥とし、取り扱い品目を徐々に拡大することで総合スーパーへと成長を遂げたという経緯がある。
ダイエーの前身「サカエ薬局」

ダイエーの前身「サカエ薬局」(神戸市に復元されたもの)。
大阪市のダイエー1号店も開業当初は「雑貨も扱うドラッグストア『主婦の店ダイエー薬局』」であった。

 その点では、イオンの傘下となっている現在業界1位・2位の「ツルハ」「ウエルシア」はこれ以上の「業態拡大」が見込めないともいえ、たとえ経営統合が起きない場合であっても数年後には再び「業界1位」が入れ替わっている可能性もあろう。 競争激化するドラッグストア。新時代の覇者となるのは一体どこであろうか。 <取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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