<漫画/榎本まみ>
事務所で、離婚に向けての打合せの際、既に夫と別居している妻(40代)が、ふと、述べた。
「スーパーで商品を手に取ると、夫の声がするんです。
いえ、近くにはいないんですが、『そんなぜいたくな物いらないだろう』とか、『もっと安いのにしろ』とか聞こえるんです。
怖くて、手に取った商品は棚に戻します」
これは、生霊の話でも、怪談でもない。心の中で、夫の声が聞こえてしまう妻は決して少なくない。私は、このような現象を脳内モラ夫(有葉えにさんの命名)と呼んでいる。
私がまだ子どもだった昭和40年代、モラ夫が当たり前で疑問もなく受け入れられていたように思う。当時、大人たちは、結婚生活の苦労から疲れている既婚女性を所帯やつれと呼んでいた。所帯やつれの妻たちは決して少なくなかった。モラ夫から日々ディスられ、いろいろと我慢し苦労を重ね、疲れていたのだろう。
当時は、モラ夫の妄想をそのまま歌詞にしたような歌謡曲が流行していた時代でもあった。その代表格は、「
恋の奴隷」だろう。コケティッシュな奥村チヨさんの持ち歌で、「あなたと遭ったその日から恋の奴隷となりました」で始まり、「…悪いときはどうぞぶってね。あなた好みのあなた好みの女になりたい」と歌い上げる。
平成の時代は、昭和の時代に比べると、ハードモラ夫が減って、ソフトモラ夫が増えてきたように思う。しかし、日本では、女性の地位向上は一向に進まず、2018年に至っても、男女平等の世界ランキングでは、110位と最低グループに留まっている。
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参考)
性差別を受けている女性たちの意識は、日本でも、変わりつつあるが、日本の男性は、どうだろうか。
はっきり言おう。日本の男たちは、非難を恐れてソフトにはなったが、男尊女卑の価値観は、昭和の頃と大差はない。
現に、ツイッターなどでは、「女尊男卑」などと、著しく認知の歪んだツイートや、女性を揶揄し、消費の対象とする下品なツイートに「いいね」が数多くついたりする。家庭だけでなく、通勤電車でも、会社でも、性加害(男性による女性に対する支配)が蔓延っている。男尊女卑のモラ文化は、依然として根強く、平成の時代をしぶとく生き延びたのである。