脳裏に響くモラハラ夫の声! 支配する夫の思考を内在化してしまう妻<モラ夫バスターな日々26>

モラ夫の思考を内在化してしまう妻

 さて、先日、私の事務所に相談に来た女性(30代)は、「私、主人といるのが辛くて、もう耐えられません」と言った。耐えられないんだったら、離婚したらどうかと水を向けると、「(離婚を言い出すなんて)怖い」と怯える。今まで、辛い日々を送ってきたんですねと問うと、小さく頷いて、目に涙がたまる。そして、女性は、「(私が辛いことが)わかりますか」と訊く。実際、表情や顔に苦悩が出ているので、それを伝えると、ポロポロと涙が頬を伝わって、落ちていく。  私があなたの代理人として、離婚の交渉をしましょうかと訊いても、夫が怖くて決断できない。そして、何か月か悩んだ末に決断して、別居、離婚へと進んでいっても、夫に対する恐怖症は消えない。家裁の待合室から、廊下を歩いている夫の姿が見えただけで、パニックを起こしたり、恐怖のあまり嘔吐したりする妻までいる。  婚姻生活中、妻はモラ夫の怒りに怯え、怒らせまいと努力する。日々、その努力を重ねると、心の中で、先回りして夫の思考を考えるようになる。これが習慣化すると、「夫の思考」が妻の心の中に内在化し、いわば、「スーパーエゴ」(超自我)化する。(参照)  そして、このスーパーエゴが、妻自身の日常を監視し、支配するようになる。脳内モラ夫の誕生である。  離婚すると、多くの妻に平穏が訪れる。妻たちは、自由になり、伸び伸びとして、輝きを取り戻す。しかし、夫と別居しても、脳内モラ夫と別れることは容易ではない。冒頭で述べたように、スーパーでモラ夫の声が聞こえたりする。リビングで休んでいても、部屋の隅の埃が目に入ると、「ソウジシロ、ソ・ウ・ジ」とモラ夫の声が聞こえる。

モラ男は、もはや日本では結婚できなくなるだろう

 離婚後数年経っても、夢の中にまでモラ夫が出てきて、なぜか車に同乗することになる。  モラ夫は、例によって、急発進、急ハンドル、急ブレーキ等の妻を怖がらせる乱暴な運転をする(私は、「モラ運転」と呼んでいる)。「こ、怖いからやめて」と懇願しても、モラ夫は妻をガン無視して、ますますモラ運転をする。例えば、そんな悪夢にうなされたりする。モラ被害の後遺症は、しばしば、長期化する。  モラ夫たちの多くは、妻をここまで痛めつけ、追い込んでいることに無頓着で、全く気にしていない。問題にされると、妻も専門家も本人にはモラの自覚がないと騙される程、とぼける術に長けている。妻に逃げられても、なお妻の気持ちを推し量ることも、自らの言動を顧みることもしない。  このようなモラ夫が溢れた日本では、女性たちは、年々、結婚に希望を持てなくなっていき、生涯未婚率の更なる上昇は止まらないだろう。このままでは、日本の少子高齢化はますます進行し、日本の衰退は加速していく。

<漫画/榎本まみ>

※JASRAC申請中
弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。コロナによる意識の変化を活動に取り込み、リモート相談、リモート交渉等を積極的に展開している。著書に『入管実務マニュアル』(現代人文社)、『国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし~モハメッド君を助けよう~』(つげ書房)。ツイッター(@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中
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