1か月の給料は「マイナス2万円」……。ある技能実習生の給与明細の衝撃

殴る、蹴る、怒鳴る

 問題は他にもあった。技能実習生は制度上、従事可能な職種や作業が定められており、グエンさんとホアンさんは「内装」の職種で技能実習を認められ、会社との契約書でも従事すべき業務は「表装(壁装作業)」と明記されていた。しかし、実際の労働内容は違った。 「建築現場での運搬作業や解体作業など、職種とは無関係な雑用ばかりやらされました。日本人がやりたくない仕事ばかり押しつけられる」(グエン) 「それ以外にも社長や部長の自宅を建てさせられたり、社長が持っている田んぼの田植えをさせられました。昨年は半月以上かけて手作業で田植えをしました。どれくらい広いか、ですか? ……とにかく広かったです」(ホアン)  労働時間はどうだったのか。 「朝8時から現場で仕事をします。休憩時間は1時間。日本人は昼食をとったあと時間一杯まで休むけど、ベトナム人はご飯を食べたらすぐ仕事に戻る。仕事が終わるのは夕方6時。日本人は定時で帰るけど、ベトナム人は夜中12時まで仕事をする。残業手当はつかない。現場が遠いと寮に帰るのは朝2時。やっと夕食をとって、次の日のお弁当を作ってから寝る。起きるのは朝5時。睡眠時間は1~2時間だけ」(グエン)  契約書では「休日 定例日:毎週土、日曜日、その他」と記載されていたが、休日出勤もざらであり、当然のように休日手当はもらえない。 「でも、それは我慢できる。辛いのは、日本人の態度が悪いこと。木材で殴る、安全靴で蹴る、顔に向けて吸い殻を投げる、『アホ』『バカ』『死ね』『現場から出ていけ』『仕事を辞めろ』『ベトナムに帰れ』と毎日怒鳴られる。会社の人はパチンコで勝つと優しくて仕事をくれるけど、負けると厳しくて仕事をくれない。仕事がもらえず、何もしないで過ごした時間も沢山ありました」(ホアン)  この実習先では6人の実習生がいたが、1人は帰国、2人は失踪、グエンさんとホアンさんを含む3人は様々な事情から群馬の管理団体に預けられているという。だが、彼らには借金が残っている。家族に事情を打ち明け、日本で得た僅かばかりの賃金とベトナムで両親がコツコツ蓄えた貯金を返済に充てているが、完済には足りない。 「私は一人っ子で、両親を支えたくて日本に来ました。でも、両親は『日本はテレビで観るのとは違って怖い国だから心配している。いつでも帰ってきなさい』と言っています」(ホアン) 「私は4人兄弟の長男です。両親は65歳以上の高齢で働けない。自分が家族の生活を支えるしかない。30代の姉は乳ガンで、その治療費も稼がないといけない。でも、日本でいくら働いても渡航費用の借金すら返せない。『もう死んだ方がいい』と自殺も考えたけど、家族のことを思ってやめました」(グエン)  この時、グエンさんのビザの期限は8月上旬に迫っていた。グエンさんは「どうにもならなければ失踪します。その後のことは分かりません」と切なそうに微笑んだ。

「日本人は怖い」

 後日、日新窟から連絡がきた。2人は監理団体からそれ相応の和解金を得て帰国することになったという。帰国前にもう一度彼らに会った。 「皆さんのおかげで借金の心配はなくなりました。ベトナムに帰ったらまた勉強します。『特定技能』の枠でもう一度日本に来て、今度こそ技能を身につけたい」と語っていた。その表情は先日よりも少しだけ明るい気がした。  彼らは日本で何を手にしたのか。確かに借金の返済に十分な和解金は得た。しかし家族を支える金額は稼げず、技能は何も習得できなかった。再び日本に来られる保証もない。彼らの手元に残ったのは、若い時代の貴重な3年間が無駄になったという事実と日本に対する恐怖や不信だけではないか。  取材中、日本人である筆者を前に、彼らは終始怯えるような目つき、弱々しい声音で話をしていた。「日本人は怖い」――アジアの若者から言われたこの言葉、その声の響きが忘れられない。 ◆ルポ 外国人労働者第1回 <取材・文・写真/月刊日本編集部>
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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