八丁味噌、柿の葉ずし……発酵食が物語る日本の歴史と食文化

鳥取県に200年伝わる柿の葉ずし

 鳥取県の智頭町は人口6000人ほどの小さな町。そこに200年ほど伝わるのが、柿の葉と呼ばれる発酵食である。柿の葉と酢で〆た白米をベースに、桜鱒や山椒の実などを乗せて桶に敷き詰め、1週間ほど発酵させる。柿の葉ずしの特徴は、酢で〆て発酵させた独特の作り方だ。  現代の江戸前寿司とは異なる作り方だが、寿司の歴史を見るとその原型は岐阜の熟れ鮓(なれずし)にあるという。 「なれずしは塩漬けにした魚とお米を混ぜ合わせ、乳酸発酵させた鮓。魚を腐らせない目的で作られていた。その後、酢で〆て発酵させ、魚の新鮮さを強調した柿の葉ずしのような簡易な発酵へと変わっていき、発酵させず、酢を絡めて握る江戸前寿司になっていった」  昔の日本は、魚を保存する技術として発酵が重宝された。食中毒を防ぎ、栄養を増進させるために魚を発酵させる。そのスターターとして米を使う時に生まれたのが寿司の起源だ。  寿司の歴史を辿ると、時代が経つに連れて、魚の新鮮さを追求していく背景が見えてくる。次第に発酵させなくても、物流や保存技術が発達したおかげで、魚の新鮮さを味わえる現代の寿司が主流になったのだ。 「柿の葉ずしは、精進落しのひと段落したタイミングで食べるのが言い伝えられている。ご先祖様が戻ってくるお盆の期間が過ぎると、親族が集まって慰労を兼ねて食ベる慣習だという。また、智頭町では正月になると豊穣を告げる歳神様に、サバのなれずしを供える習わしも存在する」(小倉氏)  智頭町に伝わる郷土すしは海と山をつなぎ、人と神様との関係を紡ぐ神聖なものとして考えられてきた。発酵文化を深堀りすると、意外な事実に辿りついた好例なのではないだろうか。

木桶仕込みの醤油

 香川県の小豆島は、日本で最も醤油蔵の密度が濃い場所。1つの島に21軒もの醤油蔵がひしめきあっている。 「小豆島は木桶で醤油を仕込んでいるのが特長的。また、ヨーロッパで主流の鉄箍(てつたが)ではなく竹箍(たけたが)を使用し、高さ3mを超す巨大な木桶から大量の醤油を醸造していた」(小倉氏)  竹箍で作る巨大な桶は、当時の日本にとって大きなイノベーションだった。醸造を大規模化すれば、その分大量に作ることができる。人を雇用し、役割分担をして働く会社組織ができ上がっていったのだ。  江戸時代初期には、味噌や醤油、酒などの醸造蔵は大量に作ることで資金を稼ぎ、販路開拓のために貿易網を広げたり、殿様に貸付を行ったりしていたという。まさに、醸造蔵が日本の貿易の基盤を作って、金融業の黎明期を担っているのではないだろうか。

酸味がまろやかな甲州ワイン

 山梨県は日本で一番のワイン醸造の土地として知られ、150年近い歴史を誇る。特に、甲州市にはワイナリーが約40軒も密集しているという。 「山梨県の峡東地区(甲州市・山梨市・笛吹市)は、日本で初めてブドウがシルクロードを渡って伝わってきた場所。山裾から風が吹いてくるので気候が良く、また隆起による傾斜地のため、水はけが良い。そのため、ブドウが育つのに適した環境で地域に根付いてきた」(小倉氏)  ヨーロッパのワインは、ワイン用に品種改良されたブドウを使うのが一般的だ。一方で、甲州ワインは甲州で育ったブドウを使い、酸味がまろやかでマイルドな味わいになるという。  かつて、シルクロードを渡ってきた外来のものも、代々受け継がれることでその土地の風土に馴染み、伝統文化になっていく。その最たるものが甲州ワインなのだ。  発酵は、その土地によって様々な変容性がある。発酵がもたらす文化的な再発見は、まだ知られていない日本の魅力に繋がるのではないだろうか。
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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『日本発酵紀行』小倉ヒラク著
D&DEPARTMENT刊/1,800円/ISBN 978-4-903097-63-3

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