そもそも自民党が言う「伝統的家族観」とは一体なんなのか。
日本会議系列の団体が制作したDVD(※2)では、「サザエさんが今も高い国民的人気を誇っているのはなぜでしょうか」と問いかけ、サザエさん一家を理想の家族像だと評価する。そのうえで祖先を敬い、親を大切に、子孫の繁栄を祈るといった伝統的家族観が憲法のどこにもかかれていないことが問題だと訴える。
日本会議のいう伝統的家族観は自民党草案・安倍政権と通底するといわれている。とするならば自民党がいう「伝統的家族」とはサザエさんの「磯野家」を指すことになる。
※2 憲法改正ドキュメンタリーDVD【世界は変わった】日本の憲法は?〜憲法改正の国民的論議を〜(美しい日本の憲法をつくる国民の会)
たしかに、サザエさんの温かい一家団欒は誰もが憧れる家族像である。しかし、原作漫画が新聞紙上で連載開始したのは1946年。舞台となる磯野家は跡取り夫婦と子、親同居の三世帯。一家の長である波平が家族を実質的に統制する「家」制度を色濃く残しているスタイルで、登場する女性はみな専業主婦だ。現代のライフスタイルとあまりにもかけ離れた世界観である。
24条改憲派は家族保護条項が家父長制や家督相続制など家制度そのもの復活を目的としているのではないと主張する。しかし、彼らが「伝統的家族観」と口にするとき、戦前の家制度を下敷きとした家族像への憧憬がみてとれる。自民党議員が盛んに口にする「伝統的家族観」とは、個人主義と両性の本質的平等を定めた現行憲法24条を否定し、個人よりも家のため、国家のために国民が利用された家制度と地続きなのではなかろうか。
伝統的家族観を主張する24条改憲派は、児童虐待など家庭内の犯罪の急増は、個人を絶対視し、「家族の絆」を軽視してきた憲法24条の個人主義に起因すると主張する。
しかし、「両性の本質的な合意のみ」の「のみ」の削除は、個人主義の抑制と家族の干渉を予感させるものだ。また、「家族条項」により、社会的な単位としての「家族」のあり方を定義され、その扶養義務を家族に押し付けるものである。
自民党の主張する改憲案によって、果たして本当に「家族の崩壊」が防げるのだろうか?
助け合いの強制と同時に、個人に対する公的扶助の切り捨てが行われる可能性もある。
かつて私たちの国は、個人より家族、ひいては国家が優先された時代があった。しかしその時代の果てにどのような歴史を経たかを、今一度確認したい。
<文/林夏子 イラスト/
「チャリツモ」>