メディア不信と新聞離れの時代に、鋭い記事目立つ毎日新聞の「挑戦」

対談を終えて(上西)

 今回、取材の機会をいただき、私たちが求める踏み込んだ記事はどうすれば生み出されうるのか、考える手がかりをつかむことができた。  1つは、組織的育成の重要性と、育成した記者に存分に書く場を与えることだ。
上西充子氏

上西充子氏

 私たちは踏み込んだ記事が少ないことを、政権への忖度や政権からの圧力ではないかと考えがちだ。もちろんそれも考慮に入れる必要があるのだろうが、同時に、踏み込んだ記事が書ける記者はいかに育つのか、という視点も欠かすことはできない。  記者は記者職を得たからといって、最初から踏み込んだ記事が書けるわけではない。番記者として張り付いてベタ記事を書き、経験を積み、人脈も形成し、そうしてようやく踏み込んだ記事が書けるようになる。そうやって育った記者に字数を気にせず、紙面バランスも気にせずに存分に書けるデジタル記事の場を提供したのが、統合デジタル取材センターという新たな部署の設置だったのだろう。  政治部、経済部、社会部など、それぞれの部署で育ってきた一騎当千の記者が、それぞれに書きたい記事を企画し提案し、一人の署名記事で存分に書き上げる。デジタル記事であるがゆえに単独の記事の評価がPVにも表れる。相互に刺激し合いながら活躍できる場を組織として与えれば、これだけの結果が出せるということが、毎日新聞の組織再編によって示されたわけだ。  存分に書ける場だけなら、数多くのネットメディアがある。けれども、充実した記事を書くには、それが書けるに至るまでの経験の積み重ねが必要だ。ネットメディアはその経験を積むだけの環境を提供できるだろうか。  そう見ていくと、記者クラブという場への評価も変わってくる。寄り添う経験を経たからこそ、本音を聞き出すこともでき、後に突き放した記事も書ける。そして、突き放した記事を書いても孤立し困窮しなくて済むように、新聞社という組織があり、有料購読のしくみが支えている。  そう考えていくと、もう1つ大切なことは、ネット記事を私たちがサブスクリプション(有料購読)によって支えることだ。良質な情報は有料で入手するのが、かつては当たり前だったということを、もう一度思い出したい。 「これだけ大事な記事なのに、なぜ有料記事の扱いなのか」という声をツイッターではよく聞く。けれども、ネット記事を支えるのが広告収入だけであれば、より扇動的な記事が跋扈し、悪貨が良貨を駆逐する状況にもなりかねない。  組織が記者を育てるように、有料購読も記者を育てる。それによって私たちが、踏み込んだ記事を読めるようになる。私たちがそれを読むことで、踏み込んだ記事が書き続けられるシステムが維持される。そんな好循環を回すことに、私たちも関わっていくことが必要だろう。 【齊藤信宏氏】1991年早大卒、毎日新聞社入社。長野支局、社会部などを経て、2002年から経済部。証券、金融業界や財務省、金融庁などを担当し、07年秋から4年間、北米総局(ワシントン支局)特派員。12年春から経済部デスク、18年春から東京経済部長。19年春から現職。 <対談構成/HBO編集部>
Twitter ID:@mu0283 うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆。新刊『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)が好評発売中
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