メディア不信と新聞離れの時代に、鋭い記事目立つ毎日新聞の「挑戦」

縦割りを超えて起きたケミストリー

上西:これまではその社会部と経済部と政治部ってのが縦割りだったわけですよね。それが各々が違うところから来ることによって、何かケミストリーと言うか、そういうのはあったんですか? 齊藤:これが面白いことに、記者たちはすごくプレッシャーを感じていたようなんです。要は、出来る記者というのが集まっているので、彼はこんなのを書いた、彼女はこんなのを書いたというのをすごく気にしているらしくて。だから月曜日の企画会議がすごく嫌だとか言う声もありましたね。あとは、他の人とネタがかぶったらどうしようとか。ただ、みんな興味関心が微妙に違っていて、不思議とかぶらないんですよ。もっとも、選挙の取材とかは同じような話が出てきたんで、チームを組ませることもありましたが。  それぞれに得意のジャンルっていうのはやはりあるんです。例えば政治部経験が長い記者は、あの自民党の「ネトウヨ小冊子」として話題になった冊子も、いち早くどこかから入手してきて、「これみてくださいよ」って言ってきた。 上西:やはりそういう「得意分野」を作るためにも、10年くらいかかるんですね。で、そうした人はいたけど、書く場所がなかった。それが統デジができたことで書く場を得たと。 齊藤:はい。そして今も、各部に書ける人間、書く場所を与えたら活躍する人間はいます。いるんですけど、例えば総理番やってねって言われたら、安倍首相にずっとくっつく。政調番といったら政調会長の動きをずっと追うとか、そういうそのルーティーンの仕事があるわけです。ただ、それは、ルーティーンの仕事かもしれないけど、実は彼らはものすごく一般の人はリーチできないような世界にリーチしてるんですよ。  だから僕も常々政治部や経済部に言ってるんです。ルーティーンの仕事だとしても絶対読まれる記事になるネタがあるって。  例えば、麻生太郎さんがいますよね。彼は火曜日と金曜日の閣議後に必ず記者会見やるんです。このとき、妙なことを言ったら記事にはなりますが、そうじゃないときも火曜日と金曜日は必ず麻生さんの話を記者は聞いているわけです。  だったら、担当記者は、あの会見の一部始終を「麻生日記」とかいって、閣議から帰ってきたときの表情から、服装から、帽子かぶってたのかぶってないのとか、なんか足組んで座ってたとか、記者がこう言ったらそれに対して「お前勉強不足だな」と言ったとかね。そういう一部始終を全部原稿書いて、こっちにくれよと。そしたらそのまま出すからって。絶対読まれるよって。  経済部で言うと日銀の黒田総裁が、必ずあの政策決定をやった後はみっちり1時間ぐらい会見やるんですよ。そこで、大したこと喋らないときもあるんですけど、それでも結構あーでもないこーでもないといろんな言い訳したりするんです。  それなんかも、断片だけじゃなくて、ずらっと全部見せたらいいんじゃないかって。  そんなことはたぶん、現場にいて紙の新聞だけを作ってきた記者は、思いがなかなか至らないんですよね。 上西:紙幅を気にしなくていいデジタルだからできることですね。会見とかって、ギュッと圧縮するとまともなこと言っているように聞こえてしまいます。実際はウニャウニャ言っているだけであっても。それが、全文を見ることでわかっちゃうんですよね。 齊藤:吉本興業の岡本昭彦社長の会見も5時間半でしたけど、全部文字起こしして、全文をネットに流せって、わーっとやったんです。生放送はやっていましたからそれ見てる人はいいでしょうけど、5時間半見てる人はなかなかいないんですよね。だから文字に起こすことによって、暇な時間にちょっと見て、ざーっとななめ読みしていったら、こんなことを言ってるんだってわかるんですよ。

読者が「ジャーナリズム」を応援して支える時代

HBOL編集部:先ほど記者の間で良い意味での競争心があるということをおっしゃいましたが、書いた記者にその書いた記事ごとのPV(ページビュー)みたいなものっていうのは公開されているんですか? 齊藤:それもですね、実はこれまではあんまりしてなかったんですけど、この春から前日にどんな記事がPV稼いだかっていう、1位から20位までのランク、それからユニークユーザー(一定期間内にサイトを訪問して記事を見てくれた人)で、うちの有料会員に繋がるような読み方をしてくれた読者の数が多かった1位から20位の記事を、メールで編集局の全員で共有するようにしています。  それだけでも、だいぶ各部も3ヶ月で心持ちが変わってきました。例えば政治部はデジタル担当デスクを1人置いて、面白い政治ネタが政治部からも出てくるようになってきています。  新聞で一面のアタマになる記事と、ネットでPVを稼ぐ記事って全然違いますよね。それが、新聞だけ作っているとなかなか想像できないんです。で、何かというと、どうせネットって猫の話だとか、どこのタレントが結婚したとかそういうのが読まれるんだろうっていうぐらいの感覚でいる人たちも多いんですよ。いやそうじゃないですよと。安倍さんの話でも一番読まれていますよと。そういうことをまず伝えていくことから始めているんです。 HBOL編集部:逆に言うと今年の春までそれができていなかったというのは、確かに組織的に旧態依然としていたんですね。でもそうなってくると、これからPV至上主義の弊害も出てくる可能性があるわけですね。 齊藤:そのへんはいろいろ研究しているところです。例えば、日経さんはデジタルでは新聞業界の最先端を行っているけど、敢えてPVを知らせてないって聞きました。逆に、もう全部自分のパソコンで自分の書いた記事から他の人の書いた記事までPVを見られるという社もあると聞きます。どちらがいいのか、研究しつつという感じです。  ただ、各社共通しているのは、新聞社はもうPVの広告収入よりサブスクリプションというか有料会員をどう獲得していくかに主眼を置いていると思います。  なので、PVも指標としては参考にするけど、本当に必要な記事はどういう記事かというと、デジタル毎日を有料で購読してくれる方がきちっと読んでくれている記事ということになりますから、そこを重視しています。  そして、有料会員も、昨年から見ると2倍、3倍と増えており、効果は出ていると思っています。 HBOL編集部:ただ、有料になるとニュースを広めるという点ではデメリットがありますよね。 齊藤:そこは確かに大きな課題です。ただ我々からするとですね、もともと有料だったでしょうっていう気持ちもあるんですよ。新聞を取っていただいている方々は有料で取って頂いていたので、それが1990年代の後半ぐらいからネットで無料で読む流れになり、それが常識になってしまった。  私は10年くらい前にアメリカにいたことがありますが、私がいた当時のアメリカが、今の日本の状況と同じような感じでした。それまで全部無料で見せていたのを、ウォールストリートジャーナルとか、ニューヨーク・タイムズとかワシントン・ポストが最初に閉じて有料化し始めて、閉じると当然のことながら、今おっしゃったような議論がやっぱり起きたわけです。  でも、そもそもニュースが無料というのはおかしいだろうと。これだけ人件費かけて、手間かけて作っているのに、無料じゃないよという意識を、もう1回、読んでいる方々に持ってもらわないと。この業界自体がジャーナリズムも含めて、成り立たないよという原点に立ち返っているという感じです。 上西:読者の側も、ジャーナリズムっていうのを支えるためにもサブスクしないとなっていう意識を持つ必要があるということですね。 齊藤:あとは、今の最大の課題は、若い世代をどう取り込んでいくかです。生まれてこの方新聞を読んだことがないという人が多い30代ぐらいまでの方々をどうするかということですね。  単に一報報じるだけだったら、ネットのニュースを見てねって話なんですけども、例えば話題になっているれいわ新選組の現象って何なの? 山本太郎さんってどうしてこんなに人気があるの? とかを読み解くような記事……つまり、視点というか、ものの見方みたいなものを提供できる記事を増やしていきたいなと思っているんですよね。  そうすると、興味を持ってもらえる可能性は出てくる。で、それを読むためには、やっぱりあなたもちょっとお金払ってねと少しは言えるのかなと思っています。
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メディア不信の時代に報じる側、読む側ができること
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