ICRPが原発事故後の放射線防護に関する勧告をアップデート中。一般住民の被ばくを減らす改定が行われる模様

アップデート版の公開とパブコメの開始

 今から一月半ほど前になる2019年6月、ICRPのホームページ上で勧告のアップデート版が初公開された(参照:ICRP)。  公開されたのは草稿段階のものであるが、全文を無料でダウンロードできる。現在はこの草稿をもとに公開査読(すなわちパブリックコメント)が実施されている。今後は、9月20日に公開査読が締め切られたのち、寄せられたコメントに基づく大小の修正を経て、正式版の新勧告が完成・公開されるはずである。

公開された草稿から見えてくるもの

 草稿につけられた仮タイトルは「Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident」となっている。これをやや意訳的に日本語化すると、「巨大原子力事故における人と環境の放射線防護」となるだろう。  草稿の第1.1章「Background」や第1.2章「Scope and structure of the publication」によると、今回行われたアップデートの基本方針は次のようなものだったらしい。 ・緊急期を扱った「109」と復興期を扱った「111」を統合し、一つの勧告とする。 ・仮タイトルに“Large Nuclear Accident”と入っている通り、チェルノブイリや福島で起きたような巨大な原子力事故のみを対象とする(その他の種類の原子力災害や放射線事故については、将来の独立した勧告で扱う)。 ・福島第一原発事故から得られた経験や教訓を取り入れる。  ここで、「巨大な原子力事故」というのは、一般人の居住地を含む広大な土地が放射能汚染を受け、大人数の長期避難や広域の除染を含む、気の遠くなるような防護対策が必要になるタイプの事故、ということである。公開されたアップデート版では、そのような事故下で有用となるだろう放射線防護指針と、防護活動を円滑に進めるためのコツ(例えば、一般人・専門家・当局者間の協力や、公助活動と自助活動の同時進行、防災訓練を含む事故前準備など)が論じられている。  多くの箇所に福島第一原発事故に関する記述が挿入されているが、とくに最終章となる Annex B では、全てのページが福島関連の記述に割かれている。
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被ばくを減らす方向の改定。日本政府の判断は?
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