「わがまま」を言ってはダメですか? 「ふつう幻想」渦巻く生きづらい時代の道標

 現代社会は「生きづらい」と、よく耳にする。一定水準の治安は保たれ、物は多く、情報にも簡単にリーチできるこの世の中で、多くの人が感じる「生きづらさ」とは何なのか。それを具体的に言語化するのは、なかなか難しい。どうして私たちは「生きづらさ」を感じるのか。孤独を感じるのか。それを紐解き、「声をあげること」に対して日本人が抱えるハードルの高さを、易しく噛み砕いて教えてくれる。それが、富永京子氏の著書『みんなの「わがまま」入門』だ。  本書は、社会運動論を研究する立命館大学産業社会学部准教授・富永京子氏が、中高生向けに講演した内容を元に執筆したものだ。「社会運動」と聞いて「うっ」と抵抗感を覚えるひとも、社会運動なんてウザいものだ、と思うひとも、怖くて声をあげられないひとも、何とも思わないひとにも、皆に優しく寄り添ってくれる。

毎日の「我慢」を無視しないで

 思えば、日常生活の中で、私たちは様々な「我慢」をして生きている。私が感じる「我慢」だけでも、たくさんある。なぜ満員電車に乗らなければならないのか。なぜ東京の家賃はこんなにも高いのか。なぜ結婚したら苗字を変えなければならないのか。でも敢えてそれらを、声高に叫ぼうとはしない。「仕方ないだろう」「そういうものだ」「ルールなのだから」という声が、聞こえてきそうだからだ。しかし、こうした「我慢」をそれぞれが抱え暮らしていくことは、果たして幸せなのだろうか。  著者・富永氏は、我慢せずに言いたいことを言い行動する人に対して「あいつはわがままだ」「ずるい」と捉える感情は、「みんな一緒、平等であるべきだという考えが元になって」いると考える。しかし、実際は「平等」や「みんな一緒」などという現実は存在せず、皆が勝手に思い込んでいる「ふつう」(富永氏は「ふつう幻想」と呼ぶ)という感覚を持っているからこそ、「あいつはわがままだ」という感想を抱いてしまうらしい。

「ふつう」という概念はもう存在しない

 高度経済成長期を経て、「国民のだれもが『中』くらいの生活をしているという、一億総中流の意識が形成された」ことから、「ふつう」の概念が生まれたと、富永氏は説く。しかしグローバル化によって、その「ふつう」の概念は消えていった。「現代は、たとえ継続的に時間と空間を他人と共有していたとしても、価値観を共有することまでは不可能な時代なのです」。  個人がそれぞれに抱く価値観を、いまだに残る「ふつう」という概念に無理やり沿わせて生きている。それが「生きづらさ」の正体なのではないだろうか。
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高度成長期と今のフェミニズム運動は違う
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