東京家裁の待合室で、当事者の女性が、自分の弁護士に対して、同居時に受けていた、夫からのモラ被害を切々と訴えていた。私は、心の中で、(おい、家裁に来る前に事情を聞いとけよ)とつぶやいた。しかし、隣に座っていたので、嫌でも聞こえてしまう。
女性は、長時間の夫の説教を受けて辛かったことを説明した後、
「調停ダメな場合、
私、離婚できますか」
と聞いた。すると、その弁護士は、
「それだけだとねぇ……暴力とか不貞とかないとね」
と答えた。
10年ほど前からの傾向として、法律相談を渡り歩く方は多い。その相談の中で、別の弁護士からのアドバイスを聞くことがある。難しい法律問題などの場合、相談者が正確に理解していないこともあろう(弁護士の説明能力の問題でもあるが)。
しかし、最近、多くの相談者が他の弁護士から聞いてくるアドバイスで最も多いのは、
「離婚するには5年間(3年間)の別居が必要」
というものだ。結論から言おう。この法的アドバイスは、間違っている。
離婚理由として、最も頻度の高いのは、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)である。
婚姻破綻と呼ばれている。
その次に頻度の高いのは、
不貞行為(民法770条1項1号)である。2号(悪意の遺棄)、3号(3年の生死不明)及び4号(強度の精神病)は、家裁実務では、殆ど使われない。
なお、妻に逃げられた夫側が悪意の遺棄を主張する例を時折みかけるが、みっともないだけで、原則、認められないのでやめた方がよい。
以上、民法には「○年間の別居」との規定はない。