婚姻破綻とは、別居期間の長短ではなく、夫婦生活の回復の見込みがない状態
判例はどうか。最高裁昭和62年9月2日大法廷判決の定義によると、婚姻破綻とは、
「夫婦の一方又は双方が既に(真摯な意思で共同生活を営む)意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態」
のことである。定義に別居期間についての言及はない。確かに、別居期間が長い方が、婚姻破綻が認められやすいだろう。
私の実務経験では、別居期間がゼロであっても、上記の最高裁の定義にあてはまる状況にあり、離婚請求者に不貞等がなければ、離婚が認められる。
モラ被害を受けた妻が、別居と同時に離婚調停を申し立て、さらにその数か月後に離婚裁判を始めても、殆どの事案で離婚が認められている。冒頭の弁護士のアドバイスは間違っている。
モラ夫の「許してやるから戻ってこい」は「後でボコボコにしてやる」と同義
モラハラ被害を受けていながら、例えば家庭内別居し、離婚手続きを始めても、離婚裁判においては、モラハラだけでは離婚は認められないだろう(離婚協議や調停に離婚理由は不要で、双方の同意で離婚が成立する)。
因みに、家庭内別居は、法律上、同居とみる。同居していれば、夫婦共同生活の意思を確定的に喪失したとはいえないし、形骸化しているとはいえ、夫婦共同生活の実体もある。また、同居が可能であれば、モラハラの程度が軽いと思われても仕方ない。
なるほど、別居期間にかかわらず離婚できることがわかった。
被害妻の次の質問は、「夫を怒らせずに円満に離婚できませんか」である。率直に言って、これは愚問である。モラ夫を怒らせたくない気持ちは痛いほどわかるが、モラ夫は、被害妻が何をしようと何をしまいと怒る。
しかも、モラ夫から逃げ、弁護士が、レッドカード(離婚)を突き付けるのである。モラ夫は必ず怒る。
「許してやるから戻って来い」というモラ夫もいるが、これは、戻ったら(その直後、もしくは暫くしてから)、ボコボコにすることを暗示する、甘言の罠である。
つまり、離婚へ向けて動いても、そのまま同居していても、モラ夫は怒るのであるから、怒るかどうかを気にしても無意味である。離婚して他人になるのだから、気にするのはやめよう。しかも、弁護士が被害妻の楯になるので、別居した以降、モラ夫の怒りを直接受けることもない。
以上、モラ離婚は難しくない。それは、被害妻の決意だけにかかっている。
問題は、離婚後の生活設計である。別居、離婚し、働き始めて、いきいきとしている(元)被害妻は多い。
モラを我慢していると、心身を病む。更年期障害が早めに訪れ、しかも重い。子どもたちがモラに同調すると、モラ文化を継承してしまう。逆にモラに反発すると、子への直接モラや面前モラによるトラウマを負い、子の人生に多大な悪影響を及ぼす。
さまざまな事案があり、一概にはいえないことを承知で言う。
モラ夫からは、逃げるのが一番である。