これに関しては、そのタイのプロリーグに参戦するクラブチームの運営や、現在でもタイ・サッカー協会と日本のJリーグなどの間で調整役として活躍する小倉敦生氏も同意する。
「白木くんの言ってることはタイではよくあることなので、西野監督はとにかく結果を出して行くしかないかなと思います。西野監督も日本人スタッフを引き連れて来ているわけではないので、監督と協会の双方にとってチャレンジになるでしょう」
西野氏のキャリアは日本においてトップクラスなのは誰もが知るところだ。そんな氏の海外初挑戦。しかも、それが一筋縄ではいかない気質を持つ人たちばかりの国タイ。小倉氏は「
いろんなことしか起きないと思ってます」と、不安もありつつ、期待もしている。
「ポテンシャルが高いと言われてるタイ人選手を日本人が指導したらどう変わるのか。楽しみです」
タイのスラムの少年たちは外国代表のユニフォームを着るが、西野氏の活躍次第ではこれがタイ代表ユニフォームに変わっていくかもしれない
タイのサッカー史上、最高の代表監督を手に入れたことに加え、西野氏を含めてタイ・サッカーに関わるすべての人にとって未知の世界に入ろうとしている。小倉氏は西野氏のサッカーがタイで成功するカギはサポート体制にあると分析する。
「協会のタイ人スタッフ並びに現場の外国人たちで、いかに西野監督が仕事に集中できる環境を整えるか、というところがカギになってくるかと思います」
そういった事情もあり、タイ・サッカー協会に深く関わる外国人――すなわち小倉氏や前出の白木氏を協会側は配置しようとしていると見られる。2人(※取材時点での情報で、ほかに協会が推す外国人がいる可能性もある)を受け入れるかどうかは最終的には西野氏の判断になるが、タイ・サッカー協会も現状は西野氏が思う存分に動けるよう、できる限りのオプションとして彼らを提案し、結果を出すための策を打っていると見られる。
「現時点ではやってみないとわからない部分が多く、時間も限られてるので、走りながら修正し、なおかつ結果を求められるという、西野監督にとっては相当タフな仕事になると思います」
タイ・サッカー協会はこれまでとはまったく違う環境を自ら作り、タイ式サッカーからの脱却を目論んでいる。その最大のキーマンになるのが西野氏である。あとは、協会の幹部陣らが「いつものタイ式」が鎌首をもたげないことを祈るばかり。西野氏のタイ代表監督就任は、案外、ヒューマンドラマを生で観るようなおもしろさが、実は裏側にはあるようだ。
<取材・文/高田胤臣>