ここで職務基準賃金だというのは、同一の仕事をしている労働者は「だいたい」同じ賃金だろうという程度の意味であり、実際には同一の仕事をしている労働者の間で細かな賃金差が様々につけられていたり、仕事が増えても賃金が上がらないなど、仕事と賃金の関係は厳密かつ客観的なものとなっておらず、賃金の決定基準が曖昧なケースは多い。この賃金決定基準の曖昧さは、端的にいえば、
労働者・労働組合が賃金決定に関与していないために生ずるといえる。
使用者は、賃金の決定基準を曖昧にしておこうとする。賃金決定基準を客観的かつ厳密なものにしてしまうと、人件費総額の柔軟性が失われるからであり、賃金決定を通じて労働者をえり好みすることができなくなるためである。したがって賃金の決定基準を客観的なものとし公正なものとするためには、労働者や労働組合が賃金と仕事の関係の規制に関与する必要があるのだ。
しかし、過重化する労働に応じて賃金を引き上げることがほんとうに可能なのか、と疑問に思う人も多いだろう。最後に、大幅な賃上げを勝ち取った青年ユニオンの事例を紹介しよう。
夜間の病院で警備や電話対応を行うアルバイト数人が青年ユニオンに入ったのは2013年のことである。救急車からの電話対応などを行うこともあり、責任の重い業務だ。勤務時間は17時から翌朝9時までで、1勤務あたりの給与は10000円前後であった。そもそも最低賃金割れ状態であったことに加えて、生活していくには厳しい給与水準であったこと、さらに夜間業務のしんどさや責任の重さに賃金が見合わないという感覚もあり、団体交渉で賃上げを求めた。団体交渉を継続した結果、賃上げが実現し、現在の1勤務あたりの給与は20000円を超えている。最初の給与から約2倍に給与が引き上げられたことになる。夜勤労働のきつさや病院事務という責任の重さを考えれば、高すぎるとは言えないだろう。
労働者が賃金・労働条件決定に関与せず、その決定を使用者の専制に委ねれば、賃金・労働条件は不公正なものになる。その賃金・労働条件決定への関与の手段として労働組合は法律によって守られ支援されてきた。それは労働組合を通じてでなければ、賃金・労働条件決定に使用者と対等な立場で労働者が参加することが困難なためである。反対に言えば、労働組合を通じてであれば、賃金・労働条件決定に使用者と対等な立場で関与することは可能なのだ。
ぜひ賃金と労働との関係を問い直し、そしてその関係への関与の可能性を検討してほしいと思う。
<文/栗原耕平>