有名人や政治家の黒い繋がり、薬物疑惑に不倫、不祥事。
週刊誌は、日々世間を騒がせるスクープ情報やスキャンダルを鋭い嗅覚で探り出し、目まぐるしい勢いで展開して行かなければならない。
そんな週刊誌記者と意見を交わす機会も稀にある。
寝る間を惜しむことなく、コストを気にかけるでもなく日夜スキャンダルを追い求める彼らの姿に、さぞかし費用対効果の大きなコンテンツなのだろうと話を聞いてみると、これらスキャンダルは話題性こそあるものの売上に大きく貢献するものではないという。
それでは、「今“売上に大きく貢献しているコンテンツ”は何ですか」との問をぶつけてみると、このような言葉が返ってくる。
「“健康”です」
病気にならないためには、最新の健康法、評判の良い医者、長生きの秘訣、体にいい食事、こんな症状は病の前兆かも……。
確かに電車の中吊り広告で見かけるお馴染みのフレーズではある。
差し押さえ・不動産執行。
この現場には「病気」「怪我」「死」というものが、手を伸ばせばすぐに届く半間(約91cm)の範囲内にコロコロと転がっている。
そしてこれらに触れなければならない機会も少なからずある。
通勤にも便利、とはお世辞にも言い難いマンション。駅からも徒歩15分ほどの距離がある。
それでも周辺施設にはショッピングモールに温泉、公共施設に憩いの場と、老後を過ごすにはうってつけの場所と言えるかもしれない。
そんなマンションの一室で我々は債務者のお爺さんが涙ながらに語る身の上話に耳を傾けている。
「こんな状態で生き返らせてくれなんて言ってない!」
声を荒らげる債務者のお爺さんは介護ベッドに横たわる奥さんの画像、それ以前の楽しい老後生活を満喫していた2人の画像など、およそ2年分を振り返るスライドショーを展開した。
“執行を速やかに終わらせる”という命題はすでに全員が諦めていた。
お爺さんの話を整頓すると、夫婦で老後生活を謳歌していたある日、買い物にでかけた奥さんが帰宅せず行方不明に。
そのままヘリコプターまでが出動する大規模な捜索が開始されるもなかなか見つからず、発見の一報が入った際には、既に行方が分からなくなってから1週間以上が経過していた。