救命講習を受けてわかったこと。人命救助時に最も必要なのは「勇気」

「骨折は治るが、命は失ったら戻らない」。勇気をもって応急措置を

「思い切り」でいうと、胸骨圧迫の度合いも気になるところだ。 「大体5センチ、単三電池の長さほど沈み込むように圧迫してほしい」(同救命士)  これに、「骨は折れたりしないのか」と聞いたところ、「胸骨の圧迫部分は、基本的にひずむようにできているので、正しく圧迫できれば問題ない」とのことだった。 「ただし、高齢者の場合は、薬の服用で骨がもろくなっている関係で折れることもある。ただ、骨折は治るが、命は失ったら戻らない。『救命処置の知識の有無』に関わらず、その救助活動に参加する勇気をまず持っていただくことが何よりも大事」  救急救命士が「勇気を持ってほしい」とするのには、善意の気持ちから応急処置を行っても、上手くできず、後で責任を問われるのではないかと不安を抱く人の存在がある。  が、日本の刑法第37条の「緊急避難」、民法第698条の「緊急事務管理」の規定からすると、悪意または重大な過失がなければ、善意の救助者が処置対象者から責任を追及されることはないと考えられている。 「AEDには通常、録音機能が付いており、使用状況の詳細が記録される。とにかく躊躇せず一刻も早く行動してほしい」(同救命士)

AEDのパッドがしっかりついていれば、服を脱がす必要はない

「AED使用に対する抵抗感」で言えば、少し前、「服を脱がせる必要がある女性患者へのAED使用は抵抗がある」という男性意見が話題になったが、実際こうした講習を受けてみると、「いざという時は、抵抗を感じる余裕すらないだろう」というのが筆者の所感だ。  無論、「周囲で女性を探す」、「タオルを掛ける」などの配慮や努力は必要だが、心配停止の状態の人は、何もしないままだと、その救命率が1分で10%ずつ低下する。息をしていない人を目の前にすれば、むしろ躊躇していられるほど心の余裕は生まれないだろう。  また、AEDのパッドがしっかり皮膚についていれば、なにも服を脱がせる必要はなく、ワイヤー付きのブラジャーも外さなくてもいいとのことだった。  たった3時間の講習だったが、受講しないと分からないことは、想像以上に多かった。 「認知がまだまだ低いため、少しでも多くの人にこの講習の存在を知ってもらえたら」(同救命士)  自治体にもよるが、今回筆者が受講した救命講習Ⅰは、月に1度の頻度で開催されており、また、日本赤十字社や他団体でも同じような講習が行われている。  忙しく参加できない場合は、せめて自分がよく利用する道路沿いのどこにAEDがあるのかだけでも知っておくといいだろう。  馴染みのない地域にいる場合は、「日本救急医療財団全国AEDマップ」などで、設置場所を調べられるため、スマホに保存しておくといいかもしれない。 <取材・文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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