れいわ新選組と山本太郎氏論・ポピュリズムとリアリズムの狭間で

「全部のせ」れいわ新選組の政策

 れいわ新選組を全く新しい政治のムーブメントだと捉える人がいるが、私はこのような見方は短絡的ではないか、と考えている。  れいわ新選組の政策は、日本のいわゆる「第三極」の政策、あるいは民主政権後の野党全般を概ね引き継いでいるからだ。  この点について語る前に、そもそも日本の左派、日本の野党の欧米と比べてのねじれを指摘しておきたい。  一般に、左派は大きな政府を望み、右派は小さな政府を施行する。これが世界的にはスタンダードだ。  左派にはいわゆる社民主義者がいて、右派には自由主義者がいる。昨今既存の枠組みに縛られない政党が出てきたり、左派の中でもMMTなど減税論を唱える政治家もいるが、基本はこうだ。(余談だが、よく日本の左派は緊縮でグローバルから見ると異質、というような意見があるが、イギリスの労働党のマニフェストでも普通に政府赤字を5年以内にゼロにするという公約があったりする。政府を信頼せず市場に任せる右派に比べ、左派は政府を信頼し政府の機能を活かそうとするので、健全な財政基盤は必要なのだ)  しかし、日本において、社民主義は江田三郎の失脚とともに教条主義化した日本社会党とともに退潮し、新自由主義が台頭した。  その後、平成維新の会・新進党・民主党・みんなの党・日本維新の会など様々な政党や政治集団が現れたが、多くが「増税なき景気回復(あるいは減税による景気刺激)と、社会保障の両立」を党の公約としてきた。  例えば、みんなの党の政策にはこうある。 ”世界中を見渡しても、デフレ下で増税をしている国はありません。みんなの党は、以下の経済成長戦略や物価安定目標の策定等により、10年間で所得を5割アップさせることを目標に掲げます。結果として、今よりもはるかに実質経済規模が小さかった1990年当時の約60兆円を超える国税収入も得ることによる財政再建も目指します”  れいわ新選組の政策にはこうある。 ”物価の強制的な引上げ、消費税をゼロに。初年度、物価が5%以上下がり、実質賃金は上昇、景気回復へ。参議院調査情報担当室の試算では、消費税ゼロにした6年後には、1人あたり賃金が44万円アップします”(参照:政策 | れいわ新選組)  この2つの根底に「増税なき景気回復」とでも呼ぶべき考えが流れていることはわかるだろうか。  この考え方は、(特定の人間が党首になった時期の民主党を除けば)日本の野党の基本的スタンスである。  税や財源は議論せず、財源は埋蔵金であったり、時に「日本は破綻しない」という学説に基づいた新たな赤字国債であったりするわけだ。  このような点を含め、消費税廃止が果たして左派的な政策なのか、疑問が残る。  私は、れいわ新選組の政策は、右派も左派も喜ぶ、過去の野党のパッチワーク的な「全部のせ」的政策であると感じている。

「全部乗せ」の限界が来てインフレになったとき、どうするのか?

 国土強靭化も、最低賃金上昇も、直接給付も、戸別所得補償制度も、消費税廃止もだいたい入っている。要は、あらゆる分野に政府支出を増やします、という政策だ。  しかし、仮にインフレ目標達成まで財政再建を先送りするにせよ、国債が無限には発行できないことは自明だ。  しかも、このような「全部乗せ」の公約である。消費減税だけではなく、様々な政策を合わせると相当な額の新規国債が必要になる。  パッチワークの結果、れいわ新選組の政策は実現性が低いもの、あるいは財源論を意図的に省いたものになったと評価せざるを得ない。  支持者の方々も含め、このような点から目をそらしてはいけないのではないか。  インフレになるまでは国債で財政の大部分を賄うということは、インフレになった場合、様々な社会サービスが削られ、大規模な増税が来るということである(インフレが絶対にこないと考えているなら別だが、論理的にはシンプルだ)。  そのような社会システムに、我々は信頼を置けるのだろうか。私は疑問である。  国債は本来、将来産業への投資などに、景気刺激策とイノベーション施策として使うべきで、安定して財源を必要とする社会保障の分野で使うことは不適切ではないのだろうか。
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日本の左派政党のねじれ
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