生む前に胎児を検査する「新型出生前診断」の拡大。生命倫理についての議論は充分か?

新型出生診断に助けられている人も一定数。議論の場を設けて!

「妊婦の方々から”ありがとうございます”とメールを頂きます。内容は安心したといった旨でした。新型出生前診断は”おろすための推奨検査”ではありません。前段階で判断材料を増やすための検査です」  新型出生前診断の拡大に伴い、「優生思想の助長だ・命の選択をすべきではない」と反対意見が相次いでいます。しかし鈴木さんは、「賛成派の意見も聞いてほしい。一部の人は本当に必要としている」と話します。  そもそも新型出生前診断とは、胎児が生まれる前に胎児と母体の状況を把握するために作られたものであり、目的は妊婦が出産に対しての不安を軽減させることです。障害を理由に堕胎することは、法律では認められていません。認められているのは、母体の身体的理由と経済的理由、そして自分の意に反して姦淫された場合のみ。 「障害を持って生まれた場合、経済的にきちんと育てていけるのだろうか。満足な生活を提供できなく、殺してしまうのではないだろうか。自分たちが先に死んでしまい、その子の生活ができなくなり、死なせてしまうのではないか。このように悩める親がいるのも事実です。その人たちを支えたい」  障害の度合いによって給付されるお金は異なるため、一部実費で補うことを余儀なくされることも。生まれる前に予想していた以上の費用がかかることもあり、家庭の経済状況が困窮する場合があると鈴木さんは指摘します。  また先に親が亡くなったとき、”親ナシに子供は無事に生きていけるのか”を心配して検査を受けに来る人もいるとのこと。

問われる社会への問題提起

 生まれてくる子のために心の準備をするという目的もある新型出生前診断。しかし、実際に陽性と判断された場合、産むか産まないかの議論は必然的に起こります。2019年4月にNIPTコンソーシアムがまとめた2019年4月までの陽性例のデータによると、中絶率は78.6%。陽性と分かった場合、およそ7割の人が中絶を選んでいるのが現状です。 「この問題って、個人の価値観によって答えが変わってきます。だからこそ議論をしなくてはいけない。議論する場を作っていかなくてはいけない。なのに大手病院とクリニックの癒着や学会内での派閥の問題など、変なところに焦点が当てられているのは非常に残念です」  新型出生前診断の目的の形骸化を防ぐため、カウンセリングなども必要。しかし一番は、日本において障害を持って生まれる人に対する物心両面での社会整備が進むことではないでしょうか。  医療機関全体で一丸となり、行政を巻き込もうとしない限り、新型出生前診断の議論は永遠に煮詰まらないと鈴木さんは話します。 <取材・文/板垣聡旨>
ジャーナリスト。ミレニアル世代の社会問題に興味がある。ネットメディアを中心に、記事の寄稿・取材協力を行っている。
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