unlim3d / PIXTA(ピクスタ)
2013年に解禁された
「新型出生前診断」、通称NIPT。妊婦の血液から、生まれる前の子供の染色体の本数を調べることで、医学的な問題がないか調べるものです。日本では、認可施設で検査を受けられるのは「分娩時35歳以上」とされています。
2019年3月、日本産婦人科学会(日産婦)が出した認可施設数の拡大案に対し、他の団体から反対が相次ぎ、厚生労働省も検討会を発足させると表明。同年6月には、日産婦が拡大を見送ると発表しました。
生命の選択に対する技術の議論をしっかり行うのかと一見思われましたが、無認可クリニックを運営する男性は、「生命倫理に関してきちんと議論されていない」と話しています。
「日本産婦人科学会は、自分たちの利益が欲しいだけ」
匿名を条件に取材を引き受けて頂いたのは、都内にある無認可クリニックを運営する鈴木さん(仮名)。2019年の3月に日産婦が出した認可施設数拡大案を懐疑的に見ています。
「今回の拡大案で日本産婦人科学会は、自分たちの利益が欲しいだけ。正直NIPTにかかる費用は高額で儲かる。患者を無認可施設に取られたくないから、自分たちの規制を緩和しようとしています」
日産婦が公表した
指針案には、検査は新型出生前診断の理念を妊婦に理解してもらった上で行う必要がある。陽性と判断された場合は、妊婦の不安を取り除き、建設的な判断をできるようにカウンセリングを受けることが必要である旨が記載されていました。
つまるところ、検査でダウン症などの病気が判明すれば、妊婦は「産むか、中絶するのか」という選択を迫られることになります。このときカウンセリングが必要だというのです。
鈴木さんが疑問に思うのは、このカウンセリングのところです。
「カウンセリングは必要だと考えますが、日本産婦人科学会は連携施設の中でカウンセリングを受けるように求めている。どこだっていいと思う。お金もかかるし。提携施設で済ませようとしているところから、患者を自分たちの枠の中で囲い込みたいだけだと思います。
ウチは無認可だけど、必要と感じれば、大型病院に精密検査の依頼もするし、専門のカウンセリング施設を紹介していますよ」
「もうウチからは患者を送らないわ」生命倫理の話はナシ。
日産婦は従来の認可施設を基幹施設とし、新たに認可施設の区分を作り、枠組みを拡大しようとしています。連携が取りやすく、スムーズに妊婦をサポートできる利点もありますが、鈴木さんは、このことに対して「結局、囲い込みたいだけじゃないか」と反対。
話を聞き続けると、どうやら病院経営において、大型病院がクリニックに圧力をかけているとのこと。
「今経営しているクリニックを立ち上げようとしたとき、地方の産婦人科医と手を組もうとしていたのですが、突然ドタキャン。理由はその人が日産婦の認可施設である大学病院から、圧力を受けたから。『お前!無認可のところと組むのか!もうウチから患者は送らないわ』と言われたため、断念したそうです」
クリニックの運営は、大学病院との関係性が重要となります。大学病院は高度で専門的な治療を行う場所。精密な治療を必要としない軽症患者は大学病院の紹介でクリニックに搬送されることが多々あるため、良好な関係構築をしなければならないと鈴木さんは話します。
患者が来ないと閉業してしまうのが現状。資金的にも規模的にも大きく異なるため、大学病院と対等な関係を作ることは難しいもの。
「患者が増えないと大変ですよ。特に開業する方。病院とはきれいゴトとビジネス。顧客、つまり受診をしてくれる方がいないとビジネスにならない」