住居のサブスクリプションサービスが登場。住み方の次世代スタンダードになりうるのか。

世界中を旅して「働く」を新しい習慣にする

大瀬良亮さん

 続いて登壇したのは、株式会社KabuK Sytleの大瀬良 亮氏。5泊で16000円、10日で32000円、1ヶ月で82000円など利用頻度に合わせてプランを選べる定額制住み放題なのがHafHの特徴だ。 「これまで様々な国を訪問したことで、世界から見た日本の素晴らしさを改めて実感できた。一方で、特にアジア圏の人たちが日本を目指して追いつき追い越せという機運の中で勢いを感じる反面、日本では満員電車などの生活する上での息苦しさや、新しいことにチャレンジしようとするものを阻む社会観念などに危機感を覚えた」と説明した。  仕事で3年間のべ71カ国、移動距離に換算して地球15周分という世界中を回ったことで、俯瞰的に日本という国を見ることができたという。今の時代Wi-Fiやパソコン、携帯があれば世界中どこでも仕事ができる。もっと世界中を旅して働くという新しい習慣を作れないか、という原体験がサブスク型住居サービスHafHをやろうとしたきっかけだったそうだ。 「会社や社会に影響されることなく、自分らしい働き方を選べる時代になってきている。これまで留学やワーキングホリデー、駐在員など海外に出るという選択肢は限られていたが、HafHを通じてもっと、気軽に世界で働ける時代を創っていきたい」と大瀬良氏は説いた。  複業やワークケーション、リモートワークなど多様な働き方が一般化してくれば、もっと世界が身近に感じる。世界には時間や場所に囚われずに働くデジタルノマドワーカーが増えている。2030年にはその数が10億人にも上るということからも、世界で働くという市場の勃興が見て取れる。  大瀬良氏は、「グローバルで考えると、日本はまだ旅して働く場所として認知されていない。HafHでは国内外合わせて82拠点のゲストハウスと提携していて、それぞれの地域での交流やイベントなどを通じて、職住近接のコミュニティが生まれるように取り組んでいる」と述べ、定額制のインバウンドビジネスの可能性について語った。  かつての江戸時代における鎖国の世の中で、唯一異国の文化との接点があった長崎・出島。和と洋のカルチャーが交じり、新たな風土が生まれたように、HafHは現代の出島を作るきっかけになるかもしれない。

人生の流れに沿って仕事をするフローライフ

加形拓也さん

 最後に登壇したのは、三浦と東京の二拠点生活を実践しているサービスデザイナーの加形拓也氏。国内外様々な場所に移動しながら仕事をしている中で、社会の変化に対しどう前向きに考え、自然体で価値提供していくのはどうしたら良いのかを考えているという。  その中で行き着いたのが、行った先で出会った人とのご縁を大事にし、人生の流れに沿って仕事をしていく「フローライフ」だ。スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱する計画的偶発性理論によると、個人のキャリアの8割は偶然の出来事によって形成されるという。この考えから、フローライフを意識して仕事するようになったと加形氏は語った。 「フローライフを実践するには、無理してやっても自分の価値提供ができない。多拠点生活にしても、そもそもなぜやるのかを考えたり、お金や移動のことなど、具体的に考え創意工夫することも忘れてはいけない」と実践者たるリアルな意見を述べた。  ワークスタイルはいずれプロジェクト型になり、さらに百姓型になっていくという。仕事に求められるものが変化し、かつての百姓のようなマルチタスクな素養が求められる時代に慣れるために、職業上のスキルを無償で提供するプロボノや空いた時間で仕事以外の取り組みをしておくのが良いと述べた。  住み方を考え直すと、地域での交流や自然とのふれあい、自分の働き方など自身を見つめ直すきっかけにもなる。会社や自宅以外のサードプレイスこそが、自分の新たな居場所になりうるのだ。多拠点生活によるライフスタイルの多様化が、次世代のスタンダードになるのだろうか。 <取材・文/古田島大介>
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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