VRの機能についても、『カスタムメイド3D2』の導入は早かった。VR技術がちらほらとメディアに登場するようになり「VR元年」という言葉が踊った2016年5月に、『カスタムメイド3D2』はアップデートを実施してVR機能を搭載したのだ。
それまでは、画面の中で動くだけだったキャラクターをヘッドセットをつけて、今までとは違った体験をできるようになったのである。
まだ「バーチャルYouTuber」も存在せず、配信など考えられていない時代。VRの魅力をいかに説明するかが新たな課題であった。そのために実施したのが体験会である。興味のある人たちに参加してもらい、実際にヘッドセットを装着してVRの臨場感を体験してもらうのである。それは想像以上に困難なことだったという。
「人それぞれで使い方をわかっている人もいない人も集まります。中には、うちのソフトも知らない人も。ですので、どこから教えればいいのかという状況でしたね」
筆者も、2016年に開催されたVRイベントに出展していた『カスタムメイド3D2』を体験している。
目の前で等身大のキャラクターがセクシーなポーズをとったり、擬似的な性行為まで体験できることに目を見張ったかといえば、そんなことはない。自分の順番が来てヘッドセットを装着してから外すまでの間には、ほとんど戸惑いしかなかった。初めて装着するヘッドセットは重く暑苦しい。特にメガネをかけていると鼻のあたりに負担が掛かって痛い。手には二本のコントローラーを渡されるが、なにをどう操作すればよいのかわからない。耳もヘッドフォンで塞がれているから聴くこともできない。また、視界は狭い。目の前には奥行きのある風景があるし、首を振れば360度どこでも映像が映る。
でも視界の周囲には常にメガネのふちのようなものがあって、圧迫感があるのは否めない。そして、それを楽しむだけのスペックのあるパソコンの値段は、少々高い……。「VR元年」とはいわれていたが、本当にこんなものが普及するかは疑問だった。
しかし、それから数年、ユーザー層は手堅く増えている。VR自体もヘッドセットを装着して臨場感を体験できるものという程度には世間の知識は広がった。少しばかり知識のある人ならば、流行しているバーチャルYouTuberは、画面の向こうで演じている人の動きをリアルタイムで再現しているのだと知っている。こうした状況を受けて2018年6月には『カスタムオーダーメイド3D2』はアップデートされ、新たに「バーチャルアバタースタジオ」という機能が搭載された。
これは、ゲームのためにユーザーがカスタマイズしたキャラクターを使ってバーチャルYouTuberになれるという機能。アダルトゲーム内の機能だから当然、アダルトな配信も可能。加えて、商用利用も可能となった。
技術はここまで進歩し、受け入れる側もVRへの認識は広まった。しかし、まだ『レディ・プレイヤー1』で描かれたような誰もがアバターを持つような世界は、まだ来ていない。『カスタムキャスト』も『カスタムオーダーメイド3D2』も、配信よりはカスタマイズした自分のキャラクターをSNSで見せて満足しているほうが多数派である。
「配信をやろうと考える人は多いでしょう。でも、女のコになってたからといって、すぐに女言葉は話せませんよね。声も同様です。ボイスチェンジャーを用いて、そこをクリアしても、配信してなにを話すのかといえば、話せない。それがハードルになっているのかなと思っています」
また、バーチャルなら誰でもすぐになりたい自分になれるかと思ったら、そんなことはなかったという「現実」もあるだろう。ほかのユーザーとコミュニケーションをとれば、現実と大差ない社会性が求められるのだ。また、「カスタムキャスト」で気軽にできるようになったとはいえ、本格的なVRはまだまだ高コストだ。
さらに、VRが自宅で手軽にできるようになっても、意外なハードルが多い。それは、とにかく面倒が多くて毎日のようにドハマリできるものはないのだ。PCと接続するヘッドセットなら太いコードが邪魔になり自由に動くことはできない。また、VR空間を動き回るには、十分な面積が必要だ。一応、最低限の広さを確保してみたが、動いていると壁や本棚にぶつかりまくるのだ。
配信したりVRchatでアバター同士で交流するには、声を出して話をしなくてはいけない。夜な夜な自分が可愛いアバターと同化して「こんばんは~」とやるわけだ。家族のいる人がやろうと思えば相当の覚悟が必要だ。
こうしたこともあり、せっかくバーチャルYouTuber機能を搭載したのに、使っているユーザーが少なく、ビジネス的にもまだ課題は少なくない。
それでも、Yamato氏には悲観はない。
「まだ、できて1,2年の話でしょう。世間が急ぎすぎていて、熟成したものを面白いから早く見せてという空気になっているんです。それで、疲労しすぎちゃっていて、それが停滞感や限界感が出てきているように見えています」
『レディ・プレイヤー1』で描かれたような、誰もがアバターを持つような世界は、まだ来ていない。しかし、なにかきっかけさえあれば、こうした停滞感や限界感を吹き飛ばし、一気に普及する可能性もあるのだ。
<取材・文/昼間たかし>