(Photo by 全賢哲)
2019年6月15日、東京都北区十条にある東京朝鮮中高級学校(以下、東京朝高)の文化祭。同校美術部の学生たちは、この文化祭に合わせ、一つの美術展を企画した。美術展のタイトルは「アンデパンダン・デパンダン展」。この美術展に出品された同校学生の作品を撮った一枚の写真が、インターネットで拡散した。それがこの「作品」だ。
東京朝鮮中高級学校美術部が、アンデパンダン・デパンダン展で出品した作品
作品のタイトルは「Cafe:Freedom of expression」―表現の自由。高さ180㎝のベニヤ板に囲われた「箱」には、製作者の男子学生が所属する東京朝高美術部に寄せられたヘイトの数々が肉筆で書き込まれていた。
「御託は良いから日本から出ていけ」
「在チョンでは北のほうがタチが悪いんだな」
「不法入国の末裔なんだから祖国へ帰れ」
この学生はどのような想いでこの作品を製作したのか。この箱に刻まれた数々のヘイトをどのような想いで聞いたのだろうか。取材を申し込んだ。対面取材は断られたが、製作者の学生が同校美術部のFacebookを通じてその心境を語ってくれた。5000字以上の長文の冒頭文が以下の通り。
「東京朝鮮中高級学校文化祭での展示以降、ツイッターから発生した美術部に関する記事やコメントが誤った内容で飛び交っているものがあリ、説明を求められる場面がたくさんありました。今回、facebook上で様々な方からもらった質問に対して答える形で、美術部からの考えを言葉にしていきたいと思います」(美術部のFacebookより原文ママ)
その想いを手繰る。
この作品が製作された動機は、平成最後の4月21日、渋谷で開催された「SDGs ハッピーアースパレードin 渋谷」に参加した事。このハッピーアースパレードとは、国連が採択した、持続可能な社会を目指す世界共通の目標、SDGs(持続可能な開発目標)の2030年までの達成を期して、「ちがいをちからに変える」ことを掲げ行われたデモ行進の事である。
このパレードに、東京朝高の美術部の学生たちも参加した。その事を美術部Twitterに投稿したところ、「朝鮮学校がそのパレードに参加するのは不適切である」という趣旨のコメントが寄せられた。
学生らは反論した。このパレードへの参加は主催者にも認められている、と。しかしこの反論がきっかけとなり、美術部のTwitterアカウントには数々のヘイトツイートやDMがどんどん送られることになった。学生たちは、そのツイートに一つ一つ返答した。その内、「拉致被害者を返せ!」というコメントが多く付くようになった。
「拉致問題は、私たちにとっても、決して軽視していいような問題ではないし、無視できるような問題ではありません。私たちも拉致問題が少しでも早く解決するように願っています。ですが、拉致問題解決を私たち美術部のアカウントに訴えても、問題が解決する訳ではありません。私たちに訴えても仕方がないということ、朝鮮は生存者を探した所見つからなかったという報告をしたということをツイートしました。すると、そのツイートが拉致被害者を冒涜しているように受け取られ、以前と比べ物にならない程の誹謗中傷が集まるようになりました。
私たちのツイートが誤解を招くような発言であったこと、拉致被害者の方々やご親族の方々にとって傷つくような発言であった事を心から申し訳なく思っています。私たちへの誹謗中傷に対する反論だったとはいえ、拉致被害者を冒涜していると思われても仕方のないような言葉の選びであった事を反省しています。その上で、私たちは拉致問題の解決を望んでいること、私たちのツイートは拉致被害者を冒涜する意図は無かった事を重ねて申し上げます。また、ツイッターで意見を交わした当事者の方たちとは和解の上、了承をもらい内容を削除させてもらいました。」(美術部のFacebookより原文ママ)