出国直前の新義州駅でも物色する中国人客(2019年5月撮影)
旅行会社に対しては、旅行人数に応じたキックバックをしたり、中国の海外旅行には、それぞれの国への許可人数の年間枠があるので、人気の日本やタイ旅行への認可人数を増やすなど利益につながるメリットを与えたり、社員旅行や研修を行った法人に対しては、法人税や増値税、関税などの減税などの優遇処置を実施している可能性がある。
そうでもしないと中国人や中国法人が北朝鮮を自発的に旅先に選ぶとは考えににくいからだ。
そこで中国の旅行会社複数社に確認したところ、当然ながら具体的なキャッシュバックの証言は得られなかった。
しかし、こんな話を聞くことができた。
「中国の旅行会社にとって日本やタイへの手配許可人数やライセンスを決める大きな権限を持つ国家旅遊部(観光局)との関係が何よりも大切なので、現在のアウトバウンドでの稼ぎ頭である日本やタイへの年間許可人数を1人でも多く確保することが旅行会社にとって重要なのです」(瀋陽の旅行会社)
つまり、旅行会社にとっては、国家旅遊局が年間旅行許可人数とライセンス許可や規約金(渡航先で逃亡者や犯罪者を出したときに支払う)の権限を持っていることや、台湾に加えてアメリカ、カナダ、香港への渡航制限もかけ始めているので、旅行会社が旅行手配ができる国や地域が減ってきているため、国家旅遊局の意向を忖度せざるを得ない土壌はあるようだ。
とすれば、北朝鮮への国連制裁は過去最大級を維持しているが、観光業は制裁の対象外なので北朝鮮にとっては貴重な外貨獲得手段となっている。その貴重な外貨を中国政府が、実質的に水面下で支援し提供することで、中国は、北朝鮮における影響力を維持し、それを外交の道具の1つにしていると考えるほうが自然だろう。
ただ、「中国人や中国法人が北朝鮮を自発的に旅先に選ぶとは考えににくい」という筆者の仮説についてはこんな反論も聞くことができた。
「今年、北朝鮮旅行へ参加する中国人は広州など華南の人が多いのですが、広州あたりからだとタイなど東南アジアへの旅行が安いのでここ数年の旅行ブームで複数回、訪れている人が新しい場所へ行ってみたいと北朝鮮や中国東北旅行をしているようです」(大連の旅行会社)
先月20日、初めて訪朝した習近平国家主席へ特別なマスゲームを披露し、24日からは中断していた一般観光客向けのマスゲームも再開している。
旅費が日本人の3分の1以下の中国人グループもマスゲーム観覧料は日本人や他の外国人と同額になるので、相対的に他の外国人の3、4倍となり非常に高額な観覧料となる。
しかし、今年のマスゲームは開催期間中は全員観覧となっているため、中国人旅行客は、昨年のように観覧しないという選択肢はない。
マスゲームが開催される10月中旬までで年間の半分近くの中国人が訪朝すると思われるので、7万人×最低観覧料100ユーロ(約1万2200円)で、北朝鮮は、単純計算700万ユーロ(約8億5000万円)以上の外貨を獲得できることになる。
<取材・文・写真/中野 鷹>