いずれにしても、学生たちの負担が増えることは間違いないJR北海道の運賃値上げ。前出の境氏は「増収策ということでは間違いではないのかもしれないが、鉄道離れが進むのが不安」と話す。
「これまで鉄道を使っていた人が、運賃の値上げによって一層マイカーや高速バスなどに流れてしまう可能性があります。201km以上の運賃は据え置きとはいえ、札幌から旭川までも140km弱。特急と高速バスがともに盛んに走っていますから、鉄道離れが進むリスクは高いでしょう。さらに地方でも家庭の負担を軽減するためにスクールバスの導入などが進むことも考えられる。地域にとっては鉄道の利用者を確保するよりも子育て家庭の流出を防ぐほうが重要な課題ですから、スクールバス導入にはメリットも多い」
運賃の値上げはJR北海道に限らず、多くの地方ローカル線で行われてきた。多くが赤字に苦しむ事業者の収支改善が目的である。これらは総じて沿線住民にも受け入れられているが、その背景には“おらが町の鉄道を守りたい”という住民意識もあったという。
しかし、JR北海道は度重なる不祥事で利用者や道民からの不信感が募る一方。そうした中での値上げは、“JR離れ”を加速させるリスクがあると言えそうだ。
「経営再建が待ったなしの状況なのは理解できますが、ここ最近のJR北海道の姿勢には疑問も多い。北海道日本ハムファイターズが北広島市に新球場を建設して本拠地を移転しますが、そのアクセスのために千歳線に新駅を建設する構想がある。これにもJRは消極的なんです。まずは新球場を盛り上げることに全面的に協力する姿勢を示し、一体となった地域活性化を目指すべきところ、JRから出てくるのはコスト面などの話ばかり。沿線を取材していても、鉄道を利用した観光の取り組みを地元がJRに提案してもコストの話が返ってくるだけだとか」(境氏)
とはいえ、JR北海道の置かれている現状は極めて厳しい。‘30年までの長期的な国の支援を受ける目論見も外れて、経営再建の状況を見て今後の支援を検討するという‘20年までの短期支援にとどまった。こうした状況で、目に見える増収策とコストカットを打ち出す必要がある。それでもそこで道民の鉄道離れを加速させてしまっては、まさしく貧すれば鈍するだ。
果たしてJR北海道に未来はあるのか。道内の鉄道網をどう維持していくのか、日本中が本気で考えなければ、もうあとはないだろう。
<取材・文/HBO編集部>