バンコクっ子も知らない、バンコクの奇祭に行ってみた

「外国人が来た!」とVIP待遇で火渡り観覧

長老

長老たちは大ボスのような貫禄で儀式が始まるのを待っていた

 火渡りの日、会場を訪れると筆者らはまるでVIPのような扱いを受ける。取材申請などしておらず、ただ一般客に混じっていただけだが、主催側の人たち――主に地元の老人たちは「外国人が来た!」とテンションが上がり、なんでも好きなだけ撮影して行けと言ってくれた。いい意味で下町感があり、だからこの祭りは全然有名にならないのだなと感じる。  境内の広場に砂が敷かれ、その上に炭で作った道が作られる。地元民たちはお布施をすると札がもらえ、そこに名前を書き、炭の上に置く。雨季のタイだったが、その日は雨が降らず、立っているだけでシャツが濡れるほど暑い。そうして、午後7時ごろ、ガソリンが炭に巻かれて火が放たれた。周囲の観客たちが逃げ惑うほどの熱気だ。  火渡り前には選ばれた者たちに関帝などを降ろす儀式が始まっていた。上半身裸の男の周りで手持ちの銅鑼や太鼓を鳴らしまくる。正直、こんなことをされたら誰だってトランス状態に入るような気がしてならない。神が憑依すると、すかさず前掛けをつけ、関帝が祀られる聖堂へ移動する。ひと通り降臨儀式が完了し、会場へと向かう。  燃え上がっていた火は1時間ほどで落ち着き、赤くなった炭の上を、あらかじめ並べてあった関帝などの像や神輿を抱えて歩いて行く。ゆっくりと歩く者もいれば、猛ダッシュで駆け抜ける者もいた。ある老人の足の裏を見せてもらった。炭の黒色がついているものの、火傷している様子はなかった。ひとり一度ではなく、何度か渡る。年度によっては女性や子どももいるそうだが、今回は関羽の妻役以外は男性ばかりだった。  渡り終わると、今度は神を抜いていく。憑依者たちは像の前で何事かをぶつぶつと呟き、突然、うしろに弾かれる。一応飛び上がった彼らを受け止める人たちがうしろにつき、落ち着かせると憑依者の今年の役目は終わりである。
火渡りが終わり、憑依していたものが抜けていく

火渡りが終わり、憑依していたものが抜けていく

関帝が入っていた人が抜けて、この儀式が終わった

関帝が入っていた人が抜けて、この儀式が終わった

 プーケットでの儀式を一度見たことがあるが、まさかバンコクにも同じものがあるとは。ネット配信者の新しい情報だけでなく、こうした古い物事にも知らないことはあるのだと知った夜だった。 <取材・文・撮影/高田胤臣>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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