妻のサポートありきの働き方の最たる例は、「転勤」だろう。家庭の事情を踏まえず、専業主婦のサポートを前提としたやり方だ。企業の中には「家族帯同が原則」とするところや、妻の就業を阻むところもある。妻は夫のケアをする存在でいればいいと言っているようなものだ。
そのような社会的な背景もあり、それまで共働きだった場合でも、やむをえず退職して夫の転勤先に行く女性は多い。再就職のための就活や保活はスムーズに行くとは限らず、専業主婦としての生活を長く送ってしまう。
一方の男性も稼ぎ主としてプレッシャーがあり、失業を恐れて転勤命令を拒みにくい。とりわけ、専業主婦の妻を持つ男性は転職しにくい。近年では転勤に際し、企業が従業員の家庭事情に配慮するケースは増えている。しかし、仕事第一主義で働いてきた上司から「家庭の事情を持ち込むなどけしからん」と思われ、評価や昇進に響く懸念はある。
前時代的な「主婦ありきの働き方」は、夫、妻の両方に重くのしかかり、暗い影を落としている。
中野氏はまた、日本人女性の「家事レベルの高さ」も、しんどさの原因となっていると見る。
「日本人女性の家事レベルは異常に高い。しかもそれを自分でやらないといけない感は凄まじい」
部屋を毎日掃除する、料理は手作り、誰も来なくてもきちんとしておくなど、高水準な家事をしなければならないとの考えが根強い。専業主婦が主流だった親世代をロールモデルとし、現代の女性たちも同じレベルを目指してしまう。2児を育てるワーキングマザーは、専業主婦だった実母から、「毎日掃除機だけではなく雑巾がけもするように」と言われ、それを守っているという。
女性が家事負担を手放せない別の理由として、女性自らが「家事と育児にしがみつく」心理状態を中野氏は挙げる。
「離職によってアイデンティティの一部または全部を失った女性たちが、自分の価値を見出そうとするため家事労働にのめり込むではないか」
本当は仕事を継続したいのに、やむをえず専業主婦をしている女性が、子どもとつきっきりの日々や世間からの隔絶で孤独感を覚えるなどして自分を見失ってしまう。そうすると、「いま自分がやっている家事・育児は、価値あることなのだ」と思い、余計にのめり込んでいく。イソップ物語の「すっぱいぶどう」の話のように、不快な事実に直面することで「認知的不協和」が起きると、自分の認識や行動を変えてしまうのだ。