米国の選挙事情に詳しい明治大学政治経済学部の海野素央教授はこう話す。
「同サイトは’16年の大統領選の際にSNSで話題となりました。メディアなどにも取り上げられましたが、政治に関する関心を高め、投票率を上げる存在として一定の評価を受けています。ただ、回答者から得たアンケートデータの取り扱いについて、危惧する声が出ているのも確かです」
一方、iSideWithのバナー広告が掲載されていた全国紙のウェブ広告担当者に話を聞くと、こう返ってきた。
「契約しているネット広告業者によって自動的に配信されているネットワーク広告なので、実態はよくわかりません。かつて、政治色の強い広告はその目的や出稿者の実態がはっきりしない限り、個別に配信不可にしていましたが、今や本紙の部数も減っており、そうも言っていられなくなった」
実態がいまいち見えてこないが、欧州議会選挙を終えたばかりのEUでも話題となっていた。5月11日、ドイツ放送局「ドイチェ・ヴェレ」はiSideWithに言及する記事を配信しているが、それによると、「(iSideWithは)どこの政党とも提携していないが、集約した匿名のデータを政治広告の出稿者に販売しており、メッセージを選挙民に効率よく届けるのに役立てられている」と述べている。
ネット戦略に長けているといわれている自民党は、今回の参院選でも圧勝するのだろうか 写真/AFP=時事
ところで同サイトの集計結果は、選挙の立候補者にとってどの程度の意味を持つのだろうか。自らの政治活動にネットやSNSを積極的に活用してきた元都議会議員で、あたらしい党代表の音喜多駿氏はこう推測する。
「コストにもよりますが、興味を持つ候補者はいるでしょう。ちなみに日本でも類似の政治アンケートサイトや候補者マッチングサイトはいくつかありましたが、公平性を保とうとすると、マネタイズが大変なようで、どこも大成功とはいかなかった。日本はまだ高齢者が選挙民の多くを占めているので、ネットによる世論調査よりも旧来の電話のほうが現時点では正確なのです。ただ5年、10年後に日本のネット選挙がより進展すれば、こうしたデータの重要性は増していくでしょう」
一方、iSideWithのような政治クイズが世論操作に悪用される危険性はないのか。3年前のトランプ政権誕生の際、SNSを通じた大掛かりな世論操作が行われ、浮動票の獲得に多大な影響を与えたのは周知のとおりだ。例えばフェイスブックやツイッターの利用者の属性や性別から割り出した、その人物の行動パターンや思想信条に沿ったターゲティング広告を掲出する手口もそのひとつだ。
ネット上の世論操作をテーマにした著書もある小説家の一田和樹氏はこう警鐘を鳴らす。
「SNSを使った選挙活動は日本でも近年、激化してきています。そうしたなか、海外で使われているサイバー世論操作がいつ日本に上陸してもおかしくはない。例えば米大統領への関与で有名になったケンブリッジ・アナリティカは、イギリスのEU脱退、ナイジェリアやケニヤの選挙にも関与していたことがわかっていますし、イスラエル企業のアルキメデスグループはアフリカ、南米、東南アジアでビジネスとしてネット世論操作を請け負っていたことが暴露されました。日本だけこうしたことが起こらないと考えるほうが不自然です。サイバー世論操作を効率よく行う上で、どういう層の人々がどんな思想を持っているかというデータは非常に役立ちます」
さらにiSideWithには別の危険性も孕んでいる。
「iSideWithを知り合いのアメリカ人が試したところ、思いもしない候補者がマッチングされたのです。また彼は、トランプ候補(当時)の政策に関しては全否定する立場だったんですが、アンケートに答えたら11%は親和性があるという結果になった。もちろん、人間は主観的な生き物なので、自分が支持していると自覚している候補者と、客観的に診断されたマッチング結果に差が生まれることもあり得るでしょう。同サイトはそうした誤差を見直すきっかけになればいいのですが、万が一、サイト側が恣意的な結果をランキング表示しているとしたら……。有権者の投票を“操作”できてしまいます」(海野氏)
米『ワシントン・ポスト』は、’16年の大統領選においてiSideWithが「数多くの有権者の投票先を変えさせた」と報じている。有権者はアンケートに答えたことで、本当に投票すべき候補者がわかったということだ。しかし、iSideWithのマッチングのアルゴリズムがどこまで正確かは調べようがない。
無党派層や浮動票が多いとされる日本に、アメリカから上陸した謎の候補者マッチングサイト。今後、我が国の選挙にどのような影響を与えるのか。