── 最高裁にとっては、非常に都合のいい条件です。
魚住:問題は、10段の特集記事に、【PR】、【裁判所の広告】といった断りがないことです。実際には広告であるにもかかわらず、読者は独立した新聞社の編集権に基づいた特集記事だと思って読むことになります。これは、質の悪い企業が読者をダマして新商品を買わせようとする時などに使う「偽装記事」(記事を偽装した広告)と変わりません。
電通が最高裁に提出した「仕様書」には「共同通信社の主催する論説研究会や編集部長会議、支社長会議などにおいて裁判員制度に関する勉強会を行い、新聞社の編集関係者の意識を高めてもらい、執筆意欲を喚起する」とも書かれていました。地方紙の編集幹部たちの意識も変えていこうというのです。さらに、仕様書には「地域オピニオン層の巻き込み」を図って裁判員制度を浸透させるとも書かれています。
つまり電通は、地元紙を主催者として前面に押し出すことで、最高裁による宣伝臭を中和して大衆を取り込むだけでなく、共同通信の勉強会・研究会を通じて地方紙の論説委員や編集幹部クラスをも取り込むという、巨大な世論誘導システムの構築を目論んでいたのです。
── タウンミーティング開催のための最高裁と電通の契約内容も杜撰なものでした。
魚住:2007年2月14日の衆院予算委で、杜撰な契約実態が次々と明らかになり、最高裁の小池裕経理局長は「契約書の日付より後に契約書面をつくった可能性が高い」と述べ、「さかのぼり契約」であることを事実上認めたのです。「国が締結する本契約は契約書の作成により初めて成立する」という1960年の最高裁判例に違反したことになります。
さらに、不可解なカネの流れも指摘されました。最高裁から電通に流れたカネのうち、少なくとも680万円が「地域力活性化研究室」に流れていました。その代表の鰀目清一朗氏は北国新聞OBで、地方紙連合の主任研究員を務めていました。鰀目氏は同郷の政治家、森喜朗元首相との関係も深く、森元首相の政治資金管理団体「春風会」の政治資金収支報告書によると、鰀目氏は裁判員制度タウンミーティングが始まる前の2005年5月末、春風会に12万円の個人献金をしていました。
電通、共同通信、地方紙、さらには「地域力活性化研究室」といった組織が連携し、最高裁の世論誘導に手を貸し、利益を得ていたということです。
裁判員制度導入前のマスコミ報道は賛成一色でした。そして現在もなお、メディアは最高裁がまとめた「裁判員制度10年の総括報告書」に沿った記事を掲載するなど、全体的に裁判員制度を肯定的に報じています。メディアの姿勢が厳しく問われています。
(聞き手・構成 坪内隆彦)