kash* / PIXTA(ピクスタ)
裁判員制度が始まってからちょうど10年を迎えた。この10年で裁判員裁判の件数は1万2000件を超え、参加した裁判員は補充裁判員も含めて約9万1000人へと達している。
そんな裁判員制度だが、実はさまざまな問題を抱えている。
施行当初53%だった裁判員辞退率は67%に上がっているほか、裁判員制度自体が「下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名したものの名簿によって、内閣でこれを任命する」と規定した憲法80条一項に違反する疑いが濃厚であることだ。そして、それ以外でもさまざまな点で意見の疑いが指摘されている。
しかし、こうした違憲の疑いについて報じるメディアはほとんどない。
『月刊日本』7月号では、「裁判員制度は憲法違反だ」と題した特集を組み、裁判員制度が孕む憲法違反の問題や、それらが報道されていないことに迫っている。今回は同特集の中から、ジャーナリスト魚住昭氏による論考を紹介したい。
── 裁判員制度施行から10年が経ちました。魚住さんは、『官僚とメディア』(角川書店)で、裁判員制度導入時に、最高裁と電通と共同通信と全国地方紙が進めた世論誘導の実態を浮き彫りにしました。
魚住昭氏(以下、魚住):いまなお、多くのメディアが、裁判員制度の本質的問題点について深く追及することを避けているように見えます。こうしたメディアの姿勢は、制度導入時に多額の広告収入を得て、世論誘導に加担していたこととまったく無関係とは言い切れないでしょう。
裁判員制度導入の旗を振ることになった最高裁は、制度に対する批判や裁判員になることへの国民の不安などを払拭し、制度が良いものであるとの世論形成をする必要がありました。そのため、電通が仕切る形で世論誘導の仕組みが作られ、27億円もの広告予算が支出されることになったのです。
この大掛かりな世論誘導プロジェクトの存在は、産経新聞大阪本社が最高裁とともに、大阪で2回、和歌山で1回開催した「裁判員制度全国フォーラム」で、1人当たり3000~5000円を払うことを条件に計244人のサクラを動員したことが発覚したことをきっかけに、注目されるようになりました。2007年1月の
最高裁の緊急発表で、サクラの動員が明らかになったのです。千葉日報も千葉市での同フォーラムで、1人3000円の日当で38人を集めていました。
── 新聞社がサクラ動員に費用をかけても、利益を得られる構造があったということですね。
魚住:電通が最高裁に出した見積書によると、「裁判員制度全国フォーラム in 大阪」1回につき、産経大阪本社には800万円近いカネが入ることになっていました。サクラに日当を払っても十分儲かる仕組みだったのです。
タウンミーティングに絡む広報のカラクリを示しているのが、電通が2005年に最高裁に提出した「仕様書」です。そこからは、電通が、全国47のブロック紙・地方紙が参加する「全国地方新聞社連合会」(地方紙連合)を使ってタウンミーティングを開けば、「事前広報」と「事後広報」を幅広く行えるし、最高裁が表に立つことなく、「実施主体の中立性」を装うことができると提案していることが読み取れます。しかも、共同通信を扇の要とする地方紙ネットワークを使えば、最高裁の指示も迅速かつ確実に各地域の施策に反映させることができると。
タウンミーティングの開催が決まると、まず「社告」を掲載します。その直後に最高裁が電通を通じて出稿したタウンミーティングの「告知広告」(5段=紙面の3分の1)を2度にわたって記事下の広告欄に有料で掲載します。そしてタウンミーティングが開催されると、その模様を3段程度で伝える記事が社会面に掲載されます。最後に、開催から2週間ほど経った日の朝刊にタウンミーティングの模様や詳細なやりとりを伝える10段(紙面の3分の2)の特集記事と最高裁の裁判員制度についての5段広告が同じ1枚の紙面に掲載されます。
つまり、最高裁は有料広告を計3回15段しか出していません。にもかかわらず、この広告には必ず無料の「社告」「社会面記事」「10段の特集記事」のオマケがついてくる仕組みになっているのです。