消える2時間ドラマ。最盛期の月30本からわずか2本に。パターン化による視聴者離れと制作費が要因

テレビ業界挑戦の歴史だった2時間ドラマ

 2時間ドラマはテレビ業界の挑戦の歴史でもある。  元祖は1977年にテレ朝の土ワイ枠で放送された「時間よ、とまれ」(主演・渥美清)だ。当時は「ドラマは1時間」が常識。しかし、1時間半の同作はTBS系「Gメン’75」など強力な裏番組が並ぶ中で視聴率16.8%(ビデオリサーチ調べ)をマーク。その成功を受けて各局で続々と2時間ドラマが制作され、視聴率30%を超える作品も生まれた。  また、テレビのリモコンが普及したのに伴い、ザッピング対策の最前線にもなった。 「脚本づくりが一から変わった。起承転結の“起”ではドラマが生まれないので視聴者が持たない。だから“転”から描くようになり、スタートから10分以内に人が死ぬんです。そして“承”では視聴者を逃がさない“またぎ”の手法が導入されました」(矢口プロデューサー)  当時としては斬新な手法、さらに気軽に旅行に行けない主婦層をターゲットに地方の観光地を舞台にした旅情ものが受け、1988年から1991年の最盛期には民放キー局は2時間ドラマ枠を週に8つも抱えるまでに。増えすぎた枠は緩やかに減っていったが、「2000年代に入っても、連ドラの視聴率が伸びない中で2時間ドラマだけが大当たりしていた時期もあった」(同)と安定して視聴率を稼ぐコンテンツとして長らく君臨した。

重くのしかかり始めた「製作費」

 しかし、近年のテレビ離れの加速と共に、視聴率は低迷。大物俳優が主演を務める作品も少なくなっていった。 「だんだん落ち目の俳優が出ているものと思われるようになってしまった。実際に引っ張りだこの俳優が出てくれなくなり、悪循環に陥っていました」(同)  そしてトドメを刺したのが、収益が伸び悩むテレビ局の製作費問題だ。制作期間もコストもかかるドラマが削られ、スタジオ収録だけなら1日で終わり、制作費も半分以下で済むバラエティー番組に枠を奪われた。  矢口プロデューサーは「それでも面白ければ、視聴者は離れないはず。過去の成功体験に引きずられ、我々制作陣がもがききれなかったんです」と反省を口にするが、金田さんは「僕は矢口さんの作品にも数多く出演させていただきましたが、どの現場でも全員がいいものを作ろうと力を尽くしていた。定番化してしまった“崖”が出てこないドラマを作ろうとかね」と弁護する。  しかし、「でもエコノミックな問題が入ることで何かがおかしくなっていった。制作側だけでなく、そこを安住の地みたいにしていた俳優もいっぱいいた。みんながいけないんです」と流れに抗いきれなかったと振り返る。
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