ここから恐ろしいシナリオが考えられる。今後のデモでは12日の争乱の人数を軽く超える人が集まるだろう。しかし、世論の反発を恐れた香港政庁は、抗議する市民と鎮圧を支持する……というか鎮圧を指示する中国共産党との板挟みになるだろう。そして、香港警察の能力を超えた事態が発生した時に何が起こるか。
イギリスもアメリカも日本も、もし香港に何かがあってもきっと助けには来ない。もちろんメディアは香港政庁と中国共産党を非難するだろう。中国政府はこの度のデモと争乱について、一貫して西欧社会の悪影響、さらには世論操作や扇動があることを主張している。この構図にはまり込むことが良いことなのか悪いなのか、今のところはわからない。私は香港の自由と民主主義を守る闘いを支持する。しかし、先行きについては暗い予測がもたげてきて仕方がない。
デモ隊の12日の行動と警察側の発表を照らし合わせると、台湾のひまわり運動のように立法会の占拠を狙ったと思しいところもうかがわせる。台湾では学生の国会占拠が政治を動かした。だが台湾と香港では事情があまりに違いすぎる。
今回のデモと争乱の舞台となった行政府の隣は、巨大な中国人民解放軍在香港駐留所のビルだ。それが香港行政府のビルと並びたっている。この意味は皆わかるはずだろう。香港には独自の軍はない。ここは法的には中国なのだ。中国人民解放軍の六千人と言われる部隊は香港行政府の意思決定は受けないで行動できる。不気味な沈黙が、中環に集まる黒いTシャツの年端もいかぬデモ参加者の群れを見下ろしている。
<文/清義明>
せいよしあき●フリーライター。「サッカー批評」「フットボール批評」などに寄稿し、近年は社会問題などについての論評が多い。近著『
サッカーと愛国』(イーストプレス)でミズノスポーツライター賞、サッカー本大賞をそれぞれ受賞。