香港デモ現地レポート。「雨傘」から「ブラックブロック」へ

現地で見た「武器を手にしたデモ隊」

 香港警察は今回の催涙弾やゴム弾などを使った鎮圧について、致し方なかったと弁解している。「彼らはレンガや鉄の棒や木の板、さらには鉄柵までをも投げつけてきた。警察は自分自身の安全と立法会を守るためにしたことだ」と香港警察は説明する。そして、これは私の見てきた限りで事実である。レンガだけではなく、投石も行われた。デモ隊が後退した後には、石の礫をぎっしりと詰めた麻袋が路上に転がっていた。さらに、傘はもっと格好の「武器」となっていた。警察官には雨あられのように傘が投げつけられていた。これらは現場にいたメディアは皆見ているはずである。  これは危険な兆候であるとしか言いようがない。雨傘デモの時はある程度は非暴力を貫く統制が効き、局地的にはあったとしても、このような全面的に暴力的な行為はなかったはずである。  私は香港に来る前から、その事態を予測していた。彼らのどこかにいるだろう主催者……またはその賛同者がネットで配布していたデモの持ち物に、黒い服を着てくるように促してあったからだ。これはブラックブロックと同じ運動方法になるのではないか。おそらく非暴力は捨てるのではないか。そして、案の定、黄色のパラソルの代わりに黒のTシャツが、この政治闘争を象徴することになった。非暴力の雨傘から、権力への実力闘争であるブラックブロックへ。香港の民主運動のターニングポイントである。

「何も変わらなかった」ことへの閉塞感

 オキュパイでは香港は結局何も変わらなかったという閉塞感がこの判断を招いたと容易に想像がつく。しかし暴力は暴力を招く。国家が相手ならば、暴力の行使はより高位の暴力が発動されるきっかけとなる。 「警察もデモ参加者も同じ香港人である」。ガス弾やゴム弾が殺傷能力があるのではないかと記者に詰め寄られて、警察トップはその記者をまっすぐ見据えて言い切った。だから、同じ香港人を殺すようなことはするわけはない、ということだ。
警官隊

(撮影/清義明)

 BBCなどのイギリスのメディアは、旧宗主国ということを忘れたかのように香港の自由の戦いをレポートし、警察の非道をレポートする。自由を求める民主運動に暴力を行使するとは何事かと。だが、その香港を150年ものあいだ植民地にし、その植民地では独立運動を弾圧し続けてきたのはいったいどこの国だろう。香港で華人に選挙権が与えられたのはごく最近のことだ。それまでイギリスは参政権を拒否し続けてきた。催涙弾にしろ、イギリスではデモなどの鎮圧にいつも使っているものではないか。催涙弾が実はイギリス製だったということが、抜け目ないメディアに調べられていたのは笑い話だ。  香港警察は催涙弾やゴム弾は、海外でも治安維持用によく使われているもので殺傷を目的としたものでないと説明しているが、きっとイギリスでもアメリカでも日本でも、警察は催涙弾やゴム弾を警察は装備している。それを使う時は、きっと香港警察と同じ説明をするだろう。なお、日本では70年代まで学生運動の鎮圧用に催涙弾は普通に使われていたことも付け加えておこう。  しかし、さすがにここまでの非難を浴びて、海外のメディアの注目も集まったからには、きっと香港政庁も考えざるをえないだろう。香港警察も今後はこれらの「武器」の使用について考えると説明している。
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香港警察の能力を超えた自体が起きたとき……
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