義足になった記者が知った、踏み間違え事故防止のヒント

実況見分を行う飯塚元院長

東京・池袋で暴走した車にはねられ母子が死亡した事故現場で、実況見分に立ち会う旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長

ついに行われた飯塚元院長の実況見分

 東京・池袋での高齢ドライバー暴走死亡事故の実況見分が、加害者である飯塚幸三元院長立ち合いで6月13日にようやく行なわれた。しかし「ブレーキが効かなかった」と言い張ることでまだ解決の見通しはなく、警視庁は飯塚元院長の事情聴取を今後任意で行なうとしている。強制ではなく任意という点にも注目したい。  これが一般庶民が起こした交通死亡事故であれば対応はまったく違うわけで、上級国民との表現や肩書は与えたくないが、警視庁サイドも過去に地位や名誉があった元院長を守ろうとする上層部と、それに反発し世間の風当たりが厳しくなっていることもあって容疑者として扱いたがっている現場サイドの鍔迫り合いが行なわれている様相がなんとなく伝わってくる空気感。  現状を察するに、運転していた本人がアクセルとブレーキの踏み間違いを決して認めないなど、元院長がプリウスに欠陥があったかのようにしているのだけは感じる。  そもそも、筆者は、両足が悪いのに東京都公安委員会が何も運転条件を付けずに免許証の更新を許した部分にも不可解なものを感じた。ここは、今後言及されるべきであろう。

今までもあった「地位で扱いが違う」と物議を醸した事例

 今回の事故では、加害者の地位などでネットではさまざまな声が飛んでいるが、交通死亡事故を起こしても加害者側にお金だけではなく地位や名誉があると容疑者にはならなかったり、逮捕されなかったりということで批判された事案は元院長だけではない。  2013年に、駐車場敷地内で死亡事故を起こした千野志麻氏は、父親が市議会議員の政治家だけではなく、夫が福田康夫元首相の孫という輝かしい家族構成だったことが100万円の罰金刑だけで済んだと揶揄されたのはそろそろ風化してきている様子。  まだ記憶に新しい2018年には、“特捜のエース”と呼ばれていた元東京地検特捜部長で弁護士の石川達紘氏が、78歳の高齢でレクサスを暴走させ、37歳の男性をはねて死亡させた事故が忘れられない。実はこの交通死亡事故は池袋の暴走事故とオーバーラップするほど言い訳はソックリ。石川氏は「レクサスが暴走したので運転ミスではない」と最後まで言い張るも、風評被害を受けていたトヨタは威信をかけて車体を検査した結果、アクセルなどに異常は見つからなかった。  しかし、石川氏は書類送検されてもレクサスに事故の要因がありと主張し、アクセルとブレーキを踏み間違えたと思われる自分の人為的ミスを否認、最終的に今年3月になって東京地方検察庁は過失致死として自動車運転処罰法違反と道路交通法違反の罪で在宅起訴処分。この件でも逮捕はされなかった。  交通ジャーナリストとしての筆者の見解では、飯塚幸三元院長を石川達紘氏と同じく、東京地検は自動車運転処罰法違反と道路交通法違反の罪で在宅起訴処分で済まされてしまう可能性がある。過去の判例をそのまま適用する場合だが、穏便に済ませるとしたらこのやり方を手段選ばず実行してくる気がする。
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義足生活だからこそ気づいた「踏み間違い防止」策
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